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Isekai Sagishi V1C4

 04﹃銀髪と⾚髪﹄

 教会は︑陽(ひ)だまり亭(てい)から⻄側──⼤通りとは反対側──へ進んだ先に建ていた︒
……これを教会と呼んでいいならな︒
今にも朽(く)ち果(は)てそうな︑傾(かたむ)いていないのが不思議なレベルの︑おんぼろな建物がそこにはあ
た︒……ヴ ンパイアでもいそうな雰囲(ふんい)気(き)だな︒
 屋根が尖(とが) ており︑教会の⽬印なのか︑⼗字架(じゆうじか)に円がく ついたようなマ クがその先端(せんたん)に
取り付けられている︒
 ⼀蹴(ひとけ)りで容易に倒壊(とうかい)しそうなボロい⾨の前に⽴ち︑ジネトが中に向かて声をかける︒
﹁おはようございま す︕﹂
 すると……
﹁ジネトおねち ん︕﹂
﹁お姉ち ん︕﹂
 と︑わらわらとちんまいガキどもが⾶び出してきた︒……うわ︒
 俺︑⼦供嫌(きら)い︒だ
 
て︑こいつら理屈(りくつ)とか通じないんだもん︒
 
﹁あ  ︕男の⼈だ ︕﹂
﹁おねちんの彼⽒だ ︕﹂
﹁ え !? ち︑違(ちが)いますよ︕﹂
 ガキどもがよく⾒せるお決まりのパタンに︑ジネトが分かりやすく狼狽(ろうばい)する︒
﹁ヤ︑ヤシロさんは︑昨晩からウチで働いてもらうことになた⽅で︑決してそのような関係では…… ︕﹂
﹁﹁﹁え  ︕つまんない︕﹂﹂﹂
﹁いえ……つまんないと⾔われましても……﹂
おろおろと困り果てるジネトを︑俺は遠 くで静観する︒関(かか)わり合いたくない︒
……と︑思ていたのだが︒
﹁ジネト姉ちんを︑悪い男から守れ︕﹂
﹁と ︕﹂﹁痛 !?﹂
ガキが突然(とつぜん)︑俺のケツに⾶び蹴りを喰(く)らわせてきやがた︒
﹁き き き  ︕﹃痛 !?﹄だて︕﹂
 イラ ……
 
﹁このガキども……⼤⼈舐めんなコラ︕﹂
﹁わあ  ︕男が怒た︕﹂
 
﹁逃げろ︕﹂
顔を⾒るに︑どちも男のようだ︒なら⼿加減はいらん︕
逃げ回るガキどもを両脇(りようわき)に抱(かか)え︑⾼速回転をお⾒舞(みま)いする︒
﹁﹁ぎ ああ  ︕怖(こわ)い いいい ︕﹂﹂
どうだ ︕⼤⼈の恐(おそ)ろしさを思い知たか︕などと︑思たのも束(つか)の間……
﹁き はははは ︕怖──い︕﹂
﹁き き き ︕﹂
その声はすぐに笑いへと変わた︒
くそ︑かなり疲(つか)れるのにダメジを与(あた)えられていない ︕あ︑もう︒ヤメだヤメ︒
⼩⽣意気なガキ⼆⼈を放(ほう)り投(な)げて顔を上げると…………俺の前にガキどもが並んでいた︒男も
⼥も︑みんな瞳(ひとみ)をキラキラさせている︒…………は︖
 
意味が分からず︑ジネトに視線を向けると︑それはそれは天使のような笑みを浮かべて教えてくれた︒
﹁順番待ちだそうですよ﹂
﹁……マジか﹂
列を作るガキどもを数えてみる︒…………⼋⼈︒え︑あと四回 ︖ 死ぬよ︑俺︖
﹁さ︑ジネト︒飯の準備をしようじ ないか︒みんな腹減ただろう︖﹂
ささと退散しよう︒こんなもんに構てられるか︒こちとら︑⾁体が若返ても⼼はオサンのままなのだ︒⾯倒(めんどう)くさい以外の感想が湧(わ)いてこない︒
だというのに︑ガキどもは列を崩(くず)さない︒そればかりか︑先頭の幼⼥︵推定四歳・ヤギ⽿美少
⼥︶は瞳をウルウルさせ始めやがた︒
﹁あの︑ヤシロさん︒⼀度ずつだけでも……ダメでしうか︖﹂
……お前は︑⻤(おに)か ︖ 天使の顔をした悪魔(あくま)なのか︖
えい ︕⼀緒(いつしよ)になて泣きそうな⽬で俺を⾒んな︕
﹁…………わかたよ ︕怖くても⼩便ちびんじねぞガキども︕﹂
俺はヤギ⽿幼⼥とその次の細⻑い尻尾(しつぽ)を⽣やした少⼥を抱え上げ︑⾼速回転を始める︒
あ︑くそ ︕幼⼥なんか抱えても全然楽しくない ︕どこも柔(やわ)らかくない︕
俺の腕(うで)に抱えられ︑⼆⼈の少⼥が﹁き き ﹂と笑う︒あ ちもこ ちも⼤きくなたら
利息つけてきちり返せよ︑ガキんちめ︕
﹁随分(ずいぶん)と賑(にぎ)やかですね﹂
やけぱちでガキを振(ふ)り回(まわ)していると︑とても落ち着いた︑涼(すず)やかな声がした︒
⾒ると︑⽬が覚めるほどの美⼈が⽴ていた︒
美しい銀髪に︑翡翠(ひすい)のような透(す)き通(とお) た瞳︒⿐筋は通 ていて︑絵本に出てくる精霊(せいれい)やエルフのような︑現実離(ばな)れした美しさだ…………あ︑エルフか︒この⼈はエルフなのかもしれない︒⽿
が尖 ている︒
﹁シスタ︑おはようございます﹂
﹁おはようございます︑ジネト︒ところで︑これはなんの催(もよお)し物(もの)なのでしう﹂
﹁はい︒ヤシロさんが⾯⽩(おもしろ)い遊びを教えてくださているんです﹂
﹁ヤシロさん ︖ とは︑彼のことですか︖﹂
﹁はい︒オオバヤシロさん︒昨⽇から陽だまり亭でお⼿伝いをしていただいている⽅です﹂
﹁ま ……陽だまり亭で……﹂
美⼈シスタが細いアゴに指を添え︑俺をまじまじと⾒つめてくる︒
な︑なんか……美⼈に⾒つめられると緊張(きんちよう)するな……
クルビ テ というのか︑あまりに整い過ぎた顔のせいで少し冷たい印象を受ける︒この⼈に怒られたら泣いてしまいそうだ︒
﹁それで︑ここに並べばいいのですか︖﹂
﹁そうですね︒⼀緒に並びましう﹂
﹁おい︑⼤⼈⼆⼈︕﹂
ジネトレベルなのか︑この美⼈シスタ︖
お前らを抱えると︑いろんなモンがいろんなとこに当たて⼤変なことになるだろうが︒
﹁あら︑⼦供専⽤なのですか﹂
﹁⼤⼈は別料⾦だ﹂
お⾦を出してくれるならやてやてもいい︒……無論︑いろんなところを触(さわ)るけど︒
﹁でしたら諦(あきら)めましう︒⾦銭的な余裕(よゆう)は︑残念ながらあまりありませんので﹂
 
特に残念そうな素振りもなく︑シスタ はあ さりと引き下がる……それはそれで︑こ ちが
ち と残念なような……
﹁私はベルテ ナと申します︒この教会でシスタをしております﹂
ベルテ ナと名乗たシスタ は右⼿を差し出し︑握⼿(あくしゆ)を求めてきた︒俺の名前はさきジネトが⾔ていたから……省略でいいか︒俺はベルテ ナの⼿を握(にぎ)り挨拶(あいさつ)をする︒
﹁よろしく︑ベルテ ナ﹂
と……物凄(ものすご)い握⼒(あくりよく)で俺の右腕(みぎうで)が圧迫(あつぱく)されていく︒
﹁イダダダダダ ︕﹂
﹁……初対⾯の相⼿を呼び捨てにするとは︑どういう教育をされているのでしう︒それに︑まだあなたから直接お名前を伺(うかが)ていないのですが﹂
﹁ご︑ごめんなさい ︕オオバヤシロと⾔います ︕ 名前がヤシロです ︕よろしくお願いします︑ベルテ ナさん︕﹂
﹁はい︒こちらこそよろしくお願い申し上げます﹂
涼しい顔でそう⾔て︑ベルテ ナは俺の⼿を解放する︒ ……俺が⿂だたら︑⼩⾻の五︑六本折れてるとこだぞ……
怖(こえ) ︑この⼈︒超(ちよう)怖 ……
﹁シスタ は普段(ふだん)とても優(やさ)しい⽅なのですが︑礼儀(れいぎ)に厳しく︑怒ると怖いんですよ﹂ジネトがこそ と俺に⽿打ちをする︒……先に⾔え︑そういうことは︒
﹁では︑みなさん︒朝ご飯の準備をしますので︑お⼿伝いしてください︕﹂
﹁﹁はい︕﹂﹂
 
ジネトが⾔うと︑⼦供たちは元気よく返事をし︑⾷材を載(の)せてきた荷⾞を曳(ひ)きながら敷地(しきち)内
へと⼊ていた︒
都合がいい︒
﹁ベルテ ナさん︒少し︑いいですか︖﹂
﹁はい︑なんでしう︖﹂ジネトとガキどもが教会に⼊たのを確認(かくにん)して︑俺は単⼑直⼊に通告する︒
﹁朝⾷の寄付を打ち切らせてください﹂
俺の⾔葉を聞いても︑ベルテ ナは表情⼀つ変えず︑ただジ と俺を⾒つめていた︒
何を考えているのか︑まるで分からない︒
⼀分近く沈黙(ちんもく)した後︑ベルテ ナは静かに⾔葉を発した︒
﹁お断りします﹂
迷いのない︑きぱりとした物⾔いだた︒
﹁私は︑⼦供たちの親代わりとして︑何より彼ら︑彼⼥らのことを第⼀に考えています︒ヤシロさんのお気持ちは分かりますが︑それは受け⼊れるわけにはいきません﹂
 
寄付がなくなれば︑ガキどもが飢えるから…… てのは分かる︒だが︒
﹁ジネトは倒(たお)れますよ ︖あの店も潰(つぶ)れる︒このままじ︑そう遠くないうちに﹂
﹁……でしうね﹂
そこで肯定(こうてい)するのは予想外だた︒ベルテ ナはそれを承知した上でジネトに無理を強(し)いている︑その⾃覚があるのか︒
 
なら︑揺さぶりをかけるのはその⾃覚と良⼼だ︒
﹁ジネトは度が過ぎるお⼈好(ひとよ)しです︒き と︑⾃分の⾝を削(けず)う︒たとえ︑店が潰れ︑⾷うに困るようになたとしても﹂
﹁……はい︒私も︑そう思います﹂
 
てでも︑寄付はやめないでし
 
﹁無理に無理を重ねれば︑命を削ることにもなりかねない︒いや︑このままじ き とそうなる﹂
﹁…………はい︒私も︑そう思います﹂
﹁それが分かているのなら︑寄付の打ち切りを……﹂
﹁お断りします﹂
…………こいつ︒
美⼈だからて︑なんでも許されると思うなよ︖
﹁ジネトが寄付をやめれば︑ここの⼦供たちが飢えてしまいます﹂
﹁だからて︑ジネトが⾝を切る必要は……﹂
﹁はい︒ありません﹂﹁だたら…… ︕﹂
﹁私は︑もと以前に……あの娘(こ)のお祖⽗(じい)様が亡(な)くなられた頃(ころ)から︑寄付は必要ないと申してきたのです﹂
﹁え︖﹂
ベルテ ナが︑無表情で俺を⾒つめている︒
静かな瞳に⾒つめられて︑背筋がぞく とした︒
﹁ジネトがそう望んでいるのなら︑寄付の打ち切りはいつでも了承(りようしよう)いたします︒もともと︑強要出来るものではありませんから﹂
﹁でも︑あいつはそんなこと︑たぶん……﹂
 
﹁⾔わないでしうね︒⼝が裂けたとしても﹂
﹁それが分かていて……﹂
﹁あの娘の善意を利⽤している……と︖﹂
﹁違(ちが)いますか︖﹂
﹁半分はそうですね……あの娘の優しさに⽢えている部分は確かにあります﹂
﹁もう半分は︖﹂
﹁……親としての︑責任です﹂
親……︖
﹁あの娘も︑かつてはここで暮らしていたのです︒両親を失い︑⾏き場をなくして﹂
﹁え……いや︑だて︑祖⽗さんがいたんだろ︖﹂
﹁養祖⽗です﹂
もらわれ ⼦……いや︑孫か……
ジネトは養⼦だたのか︒
﹁あの娘は⼗⼆歳の頃にここを出て⾏きました﹂
それから⾷堂に移り住んだということか︒
﹁あの娘のお祖⽗様は⻑年に亘(わた)りこの教会に寄付をしてくださていました︒今のジネトと同じように﹂
 
﹁祖⽗さんの遺志を受け継いでいるてのか﹂
﹁それもあるでしうが……守りたいのでしう︑弟や妹たちを﹂
ベルテ ナが教会へと視線を向ける︒
俺もつられてそちらを⾒ると︑ジネトが教会から出てくるところだた︒荷台の野菜を取りに来たらしい︒……なんてドンピシ なタイミングだ︒たまたまか ︖それとも︑エルフの特殊(とくしゆ)
能⼒みたいなもんか︒……でなければ︑親の勘(かん)︖
ジネトが教会へ引込むと︑ベルテ ナはこちらを向き︑薄(うす)い笑(え)みを俺に向けた︒
﹁あなたがあの娘のことを想(おも)て⾔てくださたことは︑嬉(うれ)しく思います﹂
﹁いや︑俺はそんな……﹂
別にジネトを想て⾔たわけではない︒陽だまり亭は︑俺が地盤(じばん)を固めるまでの仮の拠点(きよてん)だ︒そいつを潰されるのは困る︒あと︑浪費(ろうひ)てのが単純に嫌(きら)いなだけだ︒﹁ですが︑ジネトが了承していない以上︑私はあなたの願いを聞き⼊れることは出来ません︒親代わりとして︑娘(むすめ)の悲しむ顔は⾒たくはないですからね﹂
果たして︑悲しむだろうか︒……………………悲しむな︒絶対︒ジネトは︑純粋(じゆんすい)な厚意(こうい)だけで寄付を⾏ているわけではない︒
あれは︑⾃分のためでもあるのだ︒
それを分かているから︑ベルテ ナはジネトからの寄付を受け取ている︒
 
…………くそ︒ここへの寄付は切り詰められそうにないか︒
何より︑家主の反感を買うのは致命的(ちめいてき)だ︒避(さ)けなければいけない︒
﹁ヤシロさん﹂
名を呼ばれ︑顔を上げると……ふわと︑⽩く細い指が俺の髪(かみ)を撫(な)でた︒
透(す)き通(とお)るような︑いい匂(にお)いがした︒
﹁あなたのような⼈物がそばにいてくれれば︑あの娘も安⼼出来るでしう︒⼝には出さないでしうが︑⼀⼈で寂(さみ)しい思いをしていたに違いありません﹂
おんぼろで無(む)駄(だ)に広い︑誰(だれ)もいないあの家を思い出す︒
あそこで⼀⼈︑か……
ふと︑あの⽇のことが脳裏(のうり)をよぎる︒
⽕が消えてしま たような静けさと︑⾒慣れたはずの⾃分の家がまるで別の場所に感じられたあの孤独(こどく)感……
﹁ヤシロさん﹂
再び名を呼ばれ︑記憶(きおく)の海に沈(しず)みそうになた意識が呼(よ)び戻(もど)される︒
﹁どうか︑あの娘のそばにいて︑助けになてやてください﹂
﹁いや︑俺は……﹂
地盤が固まれば︑すぐにでもあそこを出ていくつもりだ︒ほんの⼀時︑今だけ世話になるだけで︑ジネトのそばにいて助けになるなんて︑そんな気はさらさらない︒
 
俺はジネトを利⽤することしか考えていない︒だというのに……こいつは︑なんて真直ぐな⽬で俺を⾒るんだ︒⾃分の考えに⼀切(いつさい)の迷いがない︑そんな⽬だ︒
ただ︑その真直ぐな⽬は少し曇(くも)ているな︒詐(さ)欺(ぎ)師(し)を信じてどうするよ︒
 
﹁あの娘は少し抜けているところがありますからね︒あなたのようなし かり者がついていてくれると助かるでしう﹂
ベルテ ナの表情が少し柔(やわ)らかくなる︒
﹁少し……あんたの⽬は節⽳か︖﹂
﹁ふふ︑我が⼦は無条件で可愛(かわい)く︑また天才的に⾒えるものなのですよ﹂
﹁親バカか﹂
﹁親代わりバカです﹂
氷のように冷たい印象を与(あた)えていた完璧(かんぺき)過ぎる美貌(びぼう)が︑くしりと歪(ゆが)む︒
それは反則なほどに綺麗(きれい)で︑⾒る者を無条件降伏(こうふく)させるほどの威⼒(いりよく)があた︒ズルイぞ……そんなチト級の武器が初期装備 て︑ありかよ︒
﹁さ︑そろそろ中に⼊りましう︒みんなが⼼配します﹂
﹁あ︒そういや︑俺も朝飯⾷てなかた けな﹂
ベルテ ナに続き︑俺は教会の敷地へと⼊ていく︒いい匂いが外まで漂(ただよ)てきている︒
﹁いい匂いですね﹂
ベルテ ナが幸せそうに⼝元を緩(ゆる)める︒
﹁ジネトの飯は美(う)味(ま)いですからね﹂
﹁え︒私からは何も返してあげられません︒だからこそ︑感謝の気持ちを込めて美(お)味(い)しくいただこうと思うのです﹂
奇(く)しくも︑俺がジネトに教えた﹃厚意は受け取れ﹄を︑こいつも実践(じつせん)しているようだ︒
﹁本来なら︑もと遠慮(えんりよ)すべきなのでしうが﹂
﹁いや……﹂
みんなが嬉しそうに⾷ ている姿を⾒て︑ジネトは満たされた気持ちにな ているのだろ
う︒
寄付がやめられない以上は︑美味そうに⾷てもらた⽅がいい︒ま ︑材料費に関しては別途(べつと)対策が必要になるだろうが……
﹁そういえば︑さきの⼦供たち以外に︑あと何⼈いるんですか︖﹂
﹁え ︖いえ︑先ほどの⼦供たちで全部ですが︖﹂
﹁は︖﹂
思わず⾜が⽌まる︒
いや︑さき⾒た⼦供たちは⼗⼈だけだたぞ︖
﹁三⼗⼈前ほど下ごしらえしてきたんですが︖﹂
﹁あ︑それでしたら﹂
ベルテ ナは︑ポンと⾃分のお腹(なか)を叩(たた)き︑満⾯の笑みで⾔う︒
﹁私は⾷(く)いしん坊(ぼう)なのです﹂
﹁遠慮しろよ︕﹂
打ち切りは無理でも︑⾷事の量は減らしてやる ︕ 絶対にだ︕新たな決意を胸に︑俺は教会の中へと⼊ていた︒
 
教会の談話室には⾷器が並べられ︑ガキどもが今か今かとジネト特製の朝⾷を待ち侘びていた︒談話室は学校の教室を⼀回り⼩さくしたような造りだが︑ガキどもが溢(あふ)れ返 ているせいで
学校というより幼稚園(ようちえん)を思い起こさせる︒
教会の中には礼拝堂しかないのかと思ていたのだが︑⾊々と部屋があるようだ︒
礼拝堂は思たよりも⼩さく︑三⼗⼈も⼊ればいぱいになりそうだた︒
礼拝堂から廊下(ろうか)を挟(はさ)んだ隣(となり)に談話室があり︑⼆階には⼦供たちの居住スペ スがあるのだという︒他(ほか)に⽇⽤品を⾃作する作業室や︑庭に作た畑などがあり︑寄付以外は⾃給⾃⾜で補 ているらしい︒
談話室の奥には執務(しつむ)室がある︒職員室のようなものだ︒その奥にシスタの私室があるとのことだが︑もちろん部外者は⽴ち⼊り禁⽌だ︒……ち︒
基本的に部外者が⽴ち⼊れるのはこの談話室と執務室に礼拝堂︒そして︑厨房(ちゆうぼう)だけだ︒
﹁おい︑ジネト︒何か⼿伝うことはないか︖﹂
 
そんなことを⾔いながら︑ジネトのいる厨房へと⾜を踏み⼊れると……
﹁あ︑ヤシロさん﹂
﹁へ︑君が噂(うわさ)の﹂
そこに︑イケメンがいた︒
真⾚な髪の⽑に整た⽬⿐⽴ち︒中性的と表現すればいいのだろうか︑そういう顔をしている︒髪もち と⻑く︑俺が学⽣だた時代なら﹁切れ︕﹂と⾔われる⻑さだ︒
薄い胸板(むないた)に細く⻑い⼿⾜︒⽬は少しきついが︑普段(ふだん)から笑顔でいることが多いのか顔つきは割と柔らかい︒
……ま ︑ただ︒その微笑(ほほえ)みの奥にどんな下⼼を隠(かく)しているのか分か たもんじ ないけどな︒
とりあえずエロそうな顔だ︒
﹁話はジネトちんから聞いたよ︒よろしくね︑オオバヤシロ君﹂
うわ︑ちん付けだよ︒
 年齢(ねんれい)は今の俺と同じか上くらいだろうに……⼗六を過ぎて⼥⼦をち ん付けで呼ぶ男なんて︑
⼋割が遊び⼈で⼆割がオネエだ︒
どちらにせよ相容(あいい)れない⼈種だ︒
﹁ん ︖どうしたの ︖ボクの顔に何かついてるかい︖﹂
﹁エロそうな顔だな﹂
﹁……初対⾯で失敬だな︑君は﹂
イケメンヤロウの頰(ほお)が引き攣(つ)る︒
く そ︒引き攣 ても美形なのかよ︑イケメンは︒俺なんか︑普通(ふつう)にしてても﹁引き攣 て
る﹂て⾔われたことあるのに︕
﹁俺はオオバヤシロ︒気軽にオオバ様と呼んでくれ﹂
﹁気軽な感じが⼀切しないんだけど……﹂
やかましい︒名を呼ばせてもらえるだけでもありがたいと思いやがれ︒
﹁ボクはエステラ︒姓(せい)は︑わけあて伏(ふ)せさせてもらうよ﹂
﹁そんな卑猥(ひわい)な苗字(みようじ)なのか︖﹂
﹁……どうして最初からボクに卑猥なイメジを持 ているのかな︑君は︖﹂
くそ︑不快感をあらわにしても美形なのかよ︑イケメンは︒俺なんか︑ち とイラてするだけで極道(ごくどう)の鉄砲⽟(てつぽうだま)呼ばわりされたてのに︒……誰が鉄砲⽟だ︒
﹁エステラさんは︑よくこの教会に遊びにいらしてまして︑⼦供たちに⼤変好かれているんです
よ﹂
……主に⼥児に︑だろ ︖通報されろ︑この変質者︒
﹁わたしも︑いつもよくしていただいて﹂
﹁そんなことないよ︒普通さ﹂
﹁では︑普通に優(やさ)しい⽅なんですね﹂
﹁はは︒ジネトちんには敵(かな)わないね﹂カ─────────── ︑ペ︕なんだその爽(さわ)やかな会話!?
薄めてないカルピスを飲んだ時よりも喉(のど)の奥から粘(ねば)こいもんが出てきたわ︕
﹁おい︑カステラ﹂
﹁エステラだよ︕﹂
き ︑顔怖 い︒⼥の⼦泣いちうぞ︑ぷぷぷ︒
﹁で︑そのエス…………なんとか﹂
﹁エステラだ︕﹂
﹁エステ ラ﹂
﹁なんで発⾳をよさげに⾔た!? エステラ︕﹂
﹁略してエラ﹂
﹁略すな︕﹂
ノリのいいイケメンだ︒
あ︑あれか︑﹁エステラ君おもしろい﹂て合コン受けを狙(ねら)てのことか!?
なんていやらしい︕
お前らイケメンは黙(だま) て酒を飲んでいればいいんだ ︕⾯⽩(おもしろ)さは顔で勝負出来ないチムの唯(ゆい)
⼀(いつ)にして最⼤の武器なんだから︑その領域にまで踏み込んできてんじねよ︕
 
﹁エステラ︒お前は王様ゲムを知ているか︖﹂
﹁いや︑聞いたこともないけど︖﹂
ははは  ︕イケメンで王様ゲムを知らないとはな︕はい ︕損してる ︕お前︑⼈⽣の半分損してる︕
﹁領⼟の統治や財政をシミレシ ンするゲムかな︖﹂
﹁バカヤロウ︑⼥の⼦にエチなことをするゲムだ﹂
﹁……それのどこが王様なのかな︖﹂
﹁王様の命令はゼタ イ︕﹂
﹁…………君は︑王を侮辱(ぶじよく)しているのか︑ただの無知なのか︑ど
エステラがこめかみを押さえて頰を引き攣らせる︒
くそ︑ここまでしても美形なのかよ︑イケメンは︕
﹁つかお前︑何しに来たの︖﹂
﹁……君︑敵意を隠すつもりはないのかな︖﹂つ    しばい
 
ちなんだい︖﹂
 
盛⼤にため息を吐いて︑エステラは少々芝居がかた⼝調で⾔う︒﹁ここはどんな⼈も受け⼊れてくれる公正で平等な教会だよ ︖ボクがここにいたて不思議なことはないだろう︖﹂
﹁不思議はないが︑不愉快ではあるな﹂
﹁……君︑友達少ないだろう︖﹂
うるさいな  ︕⼀番気にしていることを ︕これだからイケメンは︕
どうせ︑お前︑アレだろ!? ﹁友達の作り⽅ ︖ さ︑考えたことないな︒気が付いたら仲良くなてて……なんでだろうね︖﹂とか⾔うタイプだろう!? 教えてやろうか!? それはお前
がイケメンだからだよ︕
﹁貧乏(びんぼう)⾷堂が⾷材を無償(むしよう)提供してんだ︒無(む)駄飯⾷(だめしぐ)らいにはご遠慮願いたいのだが︖﹂
﹁ん……それは出来ないな﹂
あ︑イラてする︑その爽やかな﹁困たな﹂みたいな顔︕
﹁ジネトち んのご飯は美味しいからね︒⼀度⾷べてしまうと︑もう他の⾷事じ 満⾜出来なくなるんだよ﹂
﹁そうなんですか ︖嬉(うれ)しいです﹂
喜ぶなジネト︒お前はたぶらかされている︒
﹁陽だまり亭で絶賛発売中だ︒﹃⾦を出して﹄⾷いに来い﹂
﹁時間が取れればそうするよ﹂
﹁⾷てる時間がないなら⾦だけ置いて⾷わずに帰れ﹂
﹁……それ︑ボクにメリトないよね︖﹂
メリトが必要か ︖⽣まれながらにイケメンで︑⼈⽣勝ち組で︑この上まだメリトが欲しいと抜(ぬ)かすのか ︖強欲(ごうよく)の権化(ごんげ)め︑地獄(じごく)で閻魔(えんま)様に⾆でも抜かれてろ ︕﹁あ︑噓吐(うそつ)きじ ないのに⾆抜いち た﹂て︑地獄の⻤(おに)にテヘペロされろ︕
﹁とにかく︑朝⾷はジネトち んの料理がいいんだ︒けどこの時間︑陽だまり亭はまだやてないだろう︖﹂
﹁だたら︑店先に⾦を置いて帰れ﹂
﹁……だから︑ボクがそれをする理由がないて……﹂
理由が必要か︖
イケメンが世の中に貢献(こうけん)するのに︑理由が必要なのか︖
美⼈のわがままとイケメンの奉仕(ほうし)活動に理由なんかいらないだろうが︕
 
﹁お店は開いていませんが︑ここに来ていただければ召し上がれますので﹂
﹁うん︒だから毎朝早起きしてるんだ︒ジネトちんの朝⾷は︑毎⽇⾷べたいからね﹂
﹁そうなんですか︑ありがとうございます︒わたしの朝⾷でよければ毎⽇でも……﹂
﹁スト プだ︑ジネト︕﹂
何も考えずに恐(おそ)ろしい決断をしかけたジネトを︑俺は慌(あわ)てて制⽌する︒危なかた……⼀歩遅(おそ)ければ取り返しのつかないことになていた︒
﹁いいか︑俺の国ではその⾔葉はプロポズの⾔葉なんだぞ﹂
﹁プロポ…… !?﹂
ジネトが素(す)頓狂(とんきよう)な声を上げ︑顔を真⾚に染める︒
﹁へ︒﹃毎朝︑朝⾷を作てくれ﹄が転じて︑﹃ずとそばにいてほしい﹄てことか……なかなか洒落(しやれ)ているね︒君が考えたのかな︖﹂
﹁昔からある定番の⾔葉だよ﹂
﹁だとすれば︑君の故郷は随分(ずいぶん)とロマンチクなお国柄(くにがら)なんだね﹂
バカモノ︒﹃三歩下がて付いてこい﹄のお国柄だぞ ︖ロマンチクとは程遠(ほどとお)い︑いぶし銀
なお国柄だよ︒
﹁けどま ︑ボクに⾔う分には問題ないんじ ないかな︑ジネトちんの場合は﹂
﹁うふふ︒そうですね﹂なん……だと︖
それはつまりあれか︖
お⼆⼈は実はもうすでにそういうご関係で︑今さら的なことだて︑そういうことか︖じ あ︑ゆくゆくは︑あの⾷堂にこいつが居座るような展開に…………
﹁貴様に娘(むすめ)をやるわけにはいかん﹂﹁……いつから君はジネトちんの⽗親になたんだい︖﹂だて︑ヤだもんよ︕
同じ屋根の下でイケメンと巨乳(きよにゆう)がイチイチしてるなんてよ︕不許可だ︑不許可 ︕断固拒否(きよひ)する︕
﹁あ︑あのヤシロさん……︖﹂
俺を説得でもしようというのかジネトが恐る恐る声をかけてくる︒そんなジネトの⼿を取り︑俺は真摯(しんし)に⾔葉を投げかける︒
﹁いいかジネト︑よく聞け…………イケメンは︑敵だ︕﹂
﹁え……と…………はい︖﹂
えい︑くそ︕
イケメンが翻訳(ほんやく)されないのか ︕し かりしろよ︑﹃強制翻訳魔法(まほう)﹄︕
﹁こういうタイプの男は︑⼀番信⽤しちいけない︕﹂
特に︑お前みたいに胸が⼤きくてち とどころかかなり抜けている天然娘はな︕
﹁男…… ︖あ︑ヤシロさん︑違(ちが)います︕﹂
﹁何がだよ!?﹂
﹁エステラさんは⼥性ですよ︕﹂
﹁冗談(じようだん)は育ち過ぎたおぱいだけにしろ︕﹂
﹁わたしの胸は冗談ではありませんよ !?﹂
﹁ボクの性別も冗談ではないんだけどね﹂エステラが⼥だと︖
そんなバカな︒
俺はエステラの全⾝を隈(くま)なく︑舐(な)めるように︑上から下から眺(なが)め倒(たお)す︒
﹁こんなしぼくれた乳の⼥がどこにいる︕﹂
﹁……悪かたね︑ここにいるよ﹂
 
エステラの⼝⾓がぴくぴくと引き攣る︒
﹁ヤシロさん ︕⼥性にそんなことを⾔うなんて失礼ですよ︕﹂
 
﹁つらい現実を突きつけるのがか︖﹂
﹁そうです ︕たとえ⼼で思ても︑⼝にしないのがマナです︕﹂
﹁お前も︑結構酷(ひど)いこと⾔てると思うぞ︖﹂
﹁は !? す︑すすす︑すみません︑エステラさん ︕わたし︑噓(うそ)が苦⼿なもので︕﹂
﹁うん……ジネトちん︑もういいから︑これ以上抉(えぐ)らないでくれるかな︖﹂
エステラが︑ジネトの悪意のない﹃⼝撃(こうげき)﹄をくらい︑胸を押さえる︒﹁胸が抉れたのか︖﹂
﹁⼼が抉られたんだ︕﹂
﹁それでそんなにしぼんだのか︖﹂
﹁元からずとしぼんでるよ ︕ ……悪かたなしぼんでて︕﹂
エステラが柳眉(りゆうび)を逆⽴て⽛(きば)を剝(む)く︒⽬尻(めじり)に微(かす)かに光るものが浮(う)かんでいる︒
﹁ヤシロさん ︕⼥性にそんな……胸の話とか……体の話をするのは︑よくないですよ︕﹂
ジネトは俺を﹁め︑ですよ︕﹂と可愛(かわい)らしく叱(しか)りつけると︑エステラのそばへ⾏き︑そと背中をさする︒
いや︑ていうかさ……
﹁お前が⼥のフリなどしなければ︑こんなややこしいことにはならなかたんじねか﹂
﹁フリじ なくて︑ボクは⼥だ︕﹂
﹁﹃精霊(せいれい)の審判(しんぱん)﹄︕﹂
俺がエステラを指さしてそう唱えると︑エステラの体が淡(あわ)い光に包まれた︒お ……俺にも使えた︒本当に唱えるだけでいいんだな︒
﹁……これは︑宣戦布告ととてもいいのかな︖﹂
 
淡い光の中で︑エステラが不敵な笑みを浮かべている︒しばらくすると︑光は弱まり︑やがて消えてしま た︒エステラは⼈の姿のままだ︒
ということは……
﹁﹃精霊の審判﹄にも誤審はあるのか……﹂
﹁ボクが⼥で︑噓を吐いていないという証拠(しようこ)だよ︕﹂
﹁ヤシロさん︒﹃精霊の審判﹄には⼼情や感情が⼊り込む余地はありませんので︑誤審はあり得ませんよ﹂
そうなのか︒ てことは︑マジで⼥なのか……
そう思て︑改めてエステラを⾒つめる︒
中性的な顔は︑⾒ようによ ては美⼈に⾒え︑細く⻑い⼿⾜も⼥性的と⾔われればそう⾒える︒…………残念なのは真平らな胸だ︒これのせいで男だと勘違(かんちが)いをした︒
﹁お前の胸と俺の勘違いで︑有責は五分五分だな﹂
﹁統括(とうかつ)裁判所に告訴(こくそ)すれば﹃10 0﹄で勝つ⾃信があるけど︖﹂
エステラの額に⻘筋が浮かぶ︒
それにしてもこいつは雅量(がりよう)のあるヤツだな︒普通(ふつう)の⼥⼦ならブチ切れて平⼿の⼀発でも⾶ばしてくる頃(ころ)だ︒よく我慢(がまん)していると思うよ︒俺が⾔うのもなんだけど︒
物腰(ものごし)といい︑しべり⽅といい……こいつ︑お⾦持ちか︖そういえば︑服もそこそこいい感じの作りだな︒﹁お前が﹃ボク﹄なんて⼀⼈称(いちにんしよう)を使てるのは︑家庭の事情てヤツか︖﹂
﹁……え︖﹂
﹁わざわざ男ぽい格好や仕草をしているのは︑⼥であることがバレたくないからなのかと思てな︒ま ︑性別は別に秘密にしているわけではなさそうだけど﹂
﹁……どうして︑そう思たのかな︖﹂
﹁ま ……⾦持ちの家てのは︑何かと⾯倒(めんどう)くさいことが⼭積みなもんだからな﹂
﹁へ …………﹂
 
急に⾔葉数を減らし︑エステラはアゴを摘まんでしげしげと俺を⾒つめてきた︒
う ん︑やぱりまだ俺の中で⼥⼦認定(にんてい)出来ていないからか︑⾒つめられてもドキドキしない
な……むしろ﹁あ ︖ なにガンつけてんだ︑コラ︖﹂て気分になる︒
﹁君……頭がキレるんだね﹂
エステラの瞳(ひとみ)が警戒(けいかい)の⾊を強めた︒視線の鋭(するど)さが増す︒
﹁ジネトちん︒ごめん︑彼をち と借りていてもいいかな︖﹂
﹁え ︖あ︑はい︒こ ちはもう盛りつけるだけですので﹂
﹁じ あ︑あとよろしくね﹂
そんなことを⾔いながら︑エステラは俺の腕(うで)を摑(つか)んで厨房(ちゆうぼう)から連れ出そうとする︒﹁おい︑なんだよ︖﹂
﹁いいから︑ち と来てよ﹂
屋上への呼び出しか ︖ 決闘(けつとう)か ︖実は結構キレてたりしたのか︖
あらかじめ⾔ておくが︑俺は殴(なぐ)り合(あ)いに⾃信はないぞ︒俺だけ武器を持 た上で引き分けるのが精⼀杯(せいいつぱい)だからな︖
﹁話があるんだよ﹂
﹁ここでしろよ﹂
﹁ジネトちんの前じ︑ち とね……﹂
﹁…………エロい話か︖﹂
﹁なんでそうなる︖﹂
﹁いや︑⼥⼦の前では出来ない話と⾔えば……﹂
﹁ボクも⼥⼦だ﹂
﹁﹃精霊の審判﹄﹂
﹁……ホント︑殴るよ︖﹂
淡く輝(かがや)くエステラが握(にぎ)り拳(こぶし)を震(ふる)わせる︒
ガと⾸に腕を回され︑ヘドロクされる︒強い強い強い ︕ ⼒︑俺より強いじ ん︕そして︑痛い ︕柔(やわ)らかい成分が⼀切(いつさい)ない ︕ なんで⼩脇(こわき)に頭を抱(かか)えられているのに後頭部に
 
何も触れないの!? 精霊神︑ちんと仕事してる!?
そのまま強引(ごういん)に厨房から引き摺(ず)り出され︑教会の⾨を出たところで解放される︒
﹁硬(かた)い︕﹂
﹁……君︑これまで積み重ねた無礼は︑いつかきとまとめて償(つぐな)わせてやるからね︕﹂
変な形で固定されていた⾸をクキクキと鳴らす︒……筋でも違えていたら慰謝料(いしやりよう)を請求(せいきゆう)してやる︒
﹁君は……ジネトちんを狙(ねら)ているのか︖﹂
ま ︑そこら辺は疑われても仕⽅がないことだろう︒⾯倒くさいが︑きちんと説明をして理解
 
させるほかない︒こういうのをなおざりにすると︑後々尾を引くからな︒
﹁俺はこの街に来たばかりで︑ここのことがよく分かてないんだよ︒それで︑ジネトのところでしばらく厄介(やつかい)になることになたんだ﹂
﹁お⼈好(ひとよ)しのジネトちんなら︑⼀も⼆もなく承諾(しようだく)しただろうね﹂
エステラの視線が鋭くなる︒
﹁これまでも︑ジネトちんの優(やさ)しさに付け込もうとした不届き者は何⼈もいたんだ﹂エステラに⾔われて︑当たり前のことにようやく気が付く︒あんな⾷物連鎖(れんさ)の最底辺にいるようなジネトが︑これまで狙われなかたはずがない︒
⾦や⼟地はもちろん︑あの巨乳……⼥としてのジネトを狙た者もいたことだろう︒
﹁もとも︑そういう輩(やから)は全部ボクが追(お)い払(はら)たけどね﹂
﹁お前が︖﹂
﹁そうだよ︒親友に危害を加えようとする⾍を追い払うのは当然だろう︖﹂
こいつがそばで⽬を光らせていたおかげで︑ジネ トはこれまで平和に暮らせていたようだ︒……なんでかな︒ジネトがこれまでつらい思いをしていないと分かり︑ち とだけ︑安
⼼した︒
﹁そして……君も︑追い払われる男の⼀⼈になるんだよ︑これからね﹂
﹁は !?﹂
ち と待て ︕俺はジネトを狙てなどいない︕
あいつの⾦や店は…………ま ︑あわよくば︑程度だ︒真の⽬的ではない︕
﹁俺はこの街のことを知りたいだけだ︒誓(ちか)て︑ジネトに危害を加えるような真(ま)似(ね)はしていない︕﹂
﹁﹃精霊の審判﹄﹂
﹁── !?﹂
突然(とつぜん)︑エステラが俺を指さし﹃精霊の審判﹄を発動させた︒
俺の全⾝が淡い光に包まれる︒
……こいつ︑なんの前触(まえぶ)れもなく…………怖(こえ) ヤツだ︒
しばらくして︑俺の全⾝を包み込んでいた光が消失する︒
﹁へ ……どうやら﹃危害を加えるような真似はしていない﹄ ていうのは本当みたいだね︒……今のところは﹂
﹁だからそう⾔てるだろう︕﹂
……危ね︒
あの巨乳(きよにゆう)に指⼀本でも触れていたら︑俺はカエルになていたかもしれない︒
俺の⽬的は︑明確に﹃この街の情報を得ること﹄と﹃宿﹄と﹃飯﹄だ︒
巨乳に⽬を奪(うば)われる程度は許容範囲(はんい)ということか……よかた︑リビド に負けなくて︒
﹁でも︑だからと⾔て︑君を信⽤することは出来ない﹂
真顔で︑きぱりと宣⾔された︒
﹁……けど︑ジネトちんは君を信頼(しんらい)しているようだし……ま ︑君が何かおかしな⾏動を起こさないうちは︑特に事を荒⽴(あらだ)てるような真似はしないでおくよ﹂
﹁お前……なんでそこまでジネトを気にかける ︖親友だからて理由だけか︖﹂このエステラという⼥は︑そんな単純な正義感だけで動いているようには⾒えない︒
 
こいつの⽬は︑善意の向こうに⾃分の利益を⾒据えている……そう︑俺と似た⽬をしているのだ︒平静を装た仮⾯の下に︑本⼼をひた隠(かく)しにしているような……︑な︒
 
﹁⾔たろ ︖ボクはジネトち んの作る料理に惚れ込んでいるのさ︒あの味をなくしたくない︒これは︑相当な理由になると思うけどね﹂
﹁だたら︑俺をあの⾷堂から追い出すのはやめた⽅がいい﹂
﹁理由は︖﹂
﹁俺がいなくなれば︑遠からずあの⾷堂は潰(つぶ)れるぞ︒ジネトに経営は無理だ﹂
﹁ふむ……確かに﹂
エステラは腕を組み︑うんうんと頷(うなず)く︒
﹁じ あ︑君があの⾷堂を⽴て直すて⾔うのかい︖﹂
﹁俺があそこに住んでいて不⾃由を感じなくなる程度のレベルまでには︑な﹂少なからず︑俺があそこにいる間は……だけどな︒
俺の答えを聞いて︑エステラはくすりと笑いを零(こぼ)す︒
それは︑先ほどまで張りつけていた鉄仮⾯を外したような︑素直(すなお)な笑みに⾒えた︒
﹁⾯⽩(おもしろ)いね︑君は︒⾃分に正直で︑欲望(よくぼう)に素直で︑極(きわ)めてバカで……頭がいい﹂切れ⻑の⽬をくりと丸めて︑俺を⾒つめてくる︒友好的に⾒えて︑その実︑隙(すき)のない視線︒
こいつは……油断ならないヤツだ︒俺の直感がそう告げている︒
﹁執⾏猶予(しつこうゆうよ)をあげるよ﹂
﹁俺は犯罪者かよ︒失礼なヤツだ﹂
﹁君にだけは失礼だなんて⾔われたくないね﹂
エステラは︑⼦供のように頰(ほお)を膨(ふく)らませ胸を押さえる︒
素直な怒(いか)りを表現する様は︑意外に可愛(かわい)らしかた︒
﹁しばらく君を観察させてもらうよ︒怪(あや)しい素(そ)振(ぶ)りを⾒せればすぐに追い出すからね﹂
 エステラはそう⾔い残して︑⼀⼈教会へと向かて歩き出す︒随分(ずいぶん)な⾔い草だ︒
⻑居するつもりもないのだが︑追い出すなどと⾔われるのはさすがに⼼外だ︒
﹁お前にあるのか ︖俺を陽だまり亭から追い出すなんて権限が﹂
遠ざかる背中に少々挑発(ちようはつ)的な⾔葉を投げかける︒すると︑エステラは⽴ち⽌まり⾸だけをこちらに向けた︒
﹁追い出すのは陽だまり亭からじ なくて︑四⼗⼆区からだよ﹂
⼀変して冷たい声⾳(こわね)が空気を振動(しんどう)させる︒張(は)り詰(つ)めた⽷のような緊張(きんちよう)が⾛る︒﹁あ︑それから︒これは忠告だけどさ……﹂
そして再び前に向きながら︑エステラは最後にこう付け加えた……
﹁君に︑髭(ひげ)は似合わないよ﹂
﹁── !?﹂
……こいつ︑知てやがるのか︖
 
俺が細⼯したあの貼り紙を……髭を描き⾜す前の似顔絵を︑⾒てやがたのか……︖確認しなければ︒
はきりさせなければ︒
そんな思いから︑俺は⾜を⾛らせ︑教会の⼊り⼝でエステラの腕を摑まえた︒摑んだ⼿を乱暴に引き︑強引にこちらを向かせる︒
﹁ち と待てよ︑お前︕﹂
﹁え︑ち ︑うわ…… !?﹂
教会の⼊り⼝の段差に⾜をかけていたエステラは︑俺が強引に引き寄せたことで⾜を滑(すべ)らせ︑
俺に向かて倒(たお)れてきた︒
このままでは⼆⼈揃(そろ)て転倒(てんとう)してしまう︒
咄嗟(とつさ)にそう判断した俺は︑空いた左⼿で傾(かたむ)くエステラの体を⽀えた︒
……ふにん︒
﹁……ひ !?﹂
微(かす)か に︑柔らかい感触(かんしよく)が⼿のひらに当たる︒
左⼿を⾒ると︑俺の⼿は真平らなエステラの胸に押し当てられていた︒
…………うん︒ほんのち とだけだけど…………あた︒
﹁…………殴ていいかな︖﹂
﹁いや︑これは︑⼈助けだ︒事故と不可抗⼒(ふかこうりよく)とラ キ スケベは糾弾(きゆうだん)されるべきではないと︑俺は思う﹂
﹁……いい加減︑放してくれないかな︖﹂
﹁エステラ︑俺の国にはこんな⾔葉があるんだ…………﹃あと︑五分﹄﹂左の頰を引叩(ぱた)かれた︒
﹁君のこと……信⽤するのやめようかな︖﹂
﹁……いや︑俺は逆にお前を信⽤することにしたぞ……お前は︑⼥⼦だ﹂
 
グ と︑親指を⽴てて突き出すと﹁最初からそう⾔てるだろ﹂と︑軽めのデコピンをもら
た︒﹁今回はこれで許すから︑次からは気を付けてよね﹂的な︑寛容(かんよう)な制裁だ︒
エステラは俺を残して教会の中へ⼊ていき︑俺も少ししてからその後を追 た︒と︑⽞関(げんかん)⼝にジネトが⽴ており︑俺を出迎(でむか)えてくれた……の︑だが︒
顔が紅(あか)い︒
そして︑頰がぷくりと膨らんでいる︒
眉⽑(まゆげ)がくにんと吊(つ)り上がており︑怒(おこ)ているように⾒える︒
﹁エ︑エチなのは︑ダメだと⾔たはずですよ  ︕懺悔(ざんげ)してください︕﹂
こうして︑俺は朝⾷の前に礼拝堂奥の懺悔室へ連⾏され︑⼩⼀時間の懺悔を強要された︒
不可抗⼒だと訴(うつた)えるも︑シスタ ベルテ ナはそれを是(ぜ)とせず︑⼰(おのれ)の中の悪事を懺悔せよと
⾔うばかりだた︒
なので︑﹁ぺ たんこなのにち と気持ちいいと思てすみません﹂と︑懺悔しておいた︒揺(ゆ)るぎない巨乳派の俺が︑ほんの⼀瞬(いつしゆん)ぺ たんこに⼼奪(こころうば)われた瞬間だ た……そこを懺悔す
 
ると︑ベルテ ナは︑とても重いため息を吐き︑﹁……もう︑⾏て構いません﹂と解放してくれた︒
かくして︑俺の罪は浄化(じようか)されたのだ…………ろうか︖
 

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