02﹃川漁ギルドのクマ⼈族﹄
⼤通りでの騒動の翌⽇︑陽だまり亭のリフ ムが始ま た︒店は⼀時休業だ︒
だが︑⾷堂が休みだからといて︑俺たちに休んでいる暇などない︒
今すぐ⾦が⼿に⼊らなくとも︑今後経営を優位に進めていくための根回しや下準備というもの
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が必要になる︒今は︑それらを抜かりなく⾏う時期なのだ︒
﹁そんなわけで︑川漁をしている連中のところへ⾏くぞ﹂
﹁それでしたら︑四⼗⼆区の⻄側に⼤きな川がありますから︑そちらへ⾏けばお話を聞いてもらえると思いますよ﹂
⻄側というと……あ︑そういえば湿地帯から逃げる時に⼀度泳いで渡たことがあ たな︒
⽔量からして︑結構な漁が出来そうな⼤きな川だた けか︒
﹁そういえばエステラ﹂
﹁なんだい︖﹂
こいつは今⽇も︑さも当然という顔をして俺たちと⾏動を共にしていやがる︒ホント︑仕事とかしなくていいのか ︖ま ︑知たこ ちないがな︒﹁農家や漁師にはギルドはないのか︖﹂
﹁あるよ﹂
﹁あるのかよ!?﹂
以前︑農家のワニ⼈族モマ トが⾏商ギルドのアスント相⼿に無様をさらしていたので︑てきり農家は⾏商ギルドと個⼈契約でもしているのかと思たのだが︑ギルドはち んとあるらしい︒ならなぜ︑モマ トみたいな⼟いじりしかしたことのないようなヤツに交渉をさせ
ていたのか……理解に苦しむな︒
﹁農業ギルドや川漁ギルドの権限はとても弱いんだ﹂
﹁なんでだ︖﹂
﹁各区に存在するからさ﹂
﹁…………よく︑分からんが︖﹂
﹁つまりだね……﹂
エステラが語た説明はこうだ︒
⾏商ギルドは全区に権限を持ち︑⾏商に関しては絶⼤な権⼒を持 ている︒
なぜなら︑各区の領主全員が﹁⾏商に関してはお宅のギルドに⼀任しますよ﹂と委任している状態だからだ︒全領主が同時に同条件で委任するのは︑特定の区に利益が集中しないように牽制する意味合いも含んでおり︑そのため領主であてもギルドに対し強権を発動することは難しい︒そんなことをすれば︑⾃分以外のすべての領主を敵に回すことになりかねないからな︒
また︑潰し合いによる価格破壊を避けるために同系統のギルドはオルブルム内に存在出来ない︒それ故に︑⾏商ギルドのような全区を股にかけるギルドは領主の睨み合いを背景に相当な
権⼒を有しているのだ︒
﹃物流の制限﹄という脅しは︑強⼒な交渉カドになるからな︒
とにかく︑そんなクソみたいな組織だからこそ︑四⼗⼆区なんて最底辺の区を治める領主を盛
⼤に舐め倒しているのだろう︒
﹁それに強く出られない領主もどうかと思うけどな﹂
﹁ま ……いろいろあるんだよ︒この街にはね﹂
⼀⽅︑農業ギルドや川漁ギルドは各区に⼀つずつ存在している︒
それは︑領⼟を治めているのが領主であり︑その区の領⼟で⾏う⽣産活動に他の区の領主が⼝を出せるわけもないからだ︒
そうなれば︑それらのギルドは当然領主の影響を⾊濃く受けることになり︑領主が⼀⾔︑
﹁畑⼀反につき税⾦をいくらかけるんで︑そんな感じでシクヨロ︕﹂と⾔えばそれに従わざるを
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得なくなるわけだ︒逆らえば漏れなく失業だからな︒
で︑そんな領主の⾔いなりギルドが︑領主にすら意⾒出来る強豪ギルドに対し意⾒が出来るかと⾔えば…………答えは⽕を⾒るより明らかだ︒
﹁ちなみに︑ゴミ回収ギルドはどちに区分されるんだ︖﹂
﹁当然︑四⼗⼆区限定のギルドだよ﹂
思わずため息が漏れそうになた︒ヘタレ領主の⾔いなりか︒泣きたくなるね︒
﹁あ︑アレは……﹂
俺とエステラがギルドに関する話をしている間︑⼀⼈⼤⼈しくてぽてぽと隣を歩いていたジネトが︑河原が近付いた辺りで急に声を上げた︒ジネトの視線を追 てそちらを⾒ると……
﹁げ !?﹂
そこには︑体⻑が2メトルはあろうかという巨⼤な熊がこちらに背を向けて座ていた︒服を着ていないことからも︑野⽣の熊だと分かる︒
熊はシレにならん猛獣だ︒気付かれたら終わり……絶対⾷われる︒
⾒つかる前に逃げなければ……と︑そ と移動を開始しようとした時︑ジネトがとんでもない暴挙に出やがた︒
﹁こ んにちは︕﹂
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お前︑何してんの!? なんで熊に⼿なんか振てんの!?
ジネトの声に反応して︑熊が﹁のそり……﹂と動き︑野太い声が⽿に届いた︒
﹁お ︕ジネトち ん︕﹂
﹁オメロさん ︕お仕事お疲れ様です︕﹂
え ︖ …………今︑しべた︖
数メ トル先で︑陽気な顔でこちらに向か て⼿を振 ている熊を︑よ く観察してみる
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と……す げ⼩さいビキニパンツを穿いていた︒男⼦競泳⽤ブメランパンツをTバクにし
たようなヤツだ︒……え︑なに︑あれ︖
﹁どうしたんだい︒今⽇はみんなで河原を散歩かい︖﹂
トコトコと歩み寄てくるその巨⼤な熊は︑俺たちの⽬の前まで来ると⽴ち⽌ま た︒
……つか︑こいつ︑熊か ︖ なんか︑顔が……
﹁な︒念のために確認したいんだが……﹂
﹁ん ︖ なんだ兄ちん︖﹂﹁あんた︑クマ⼈族か︖﹂
﹁いんや︑アライグマ⼈族だが︖﹂
﹁紛らわしいわ ︕あと︑デカい︕﹂
俺が怒鳴るとアライグマ⼈族のオメロはビク
と肩をすくませた︒﹁そんなこと⾔われても……オレは⽣まれた時からこの体だし……﹂
﹁いや︑怒鳴てすまなかた︒なんか︑スゲ怖かたから︑つい……﹂
ま ︑野⽣の熊じ なくてよかたということにしておこう︒
﹁で……なんでさきから横向いてんだ︑エステラ︖﹂
﹁う︑うるさいな……しうがないだろう︑そんな格好をされていては……﹂そんな格好と⾔うが……
﹁どこか変か︖﹂
﹁そ︑そんな際どい⽔着で⼥⼦の前に堂々と⽴たないでほしいものだね︕﹂
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いや……これ︑どう⾒ても野⽣の動物じ ねか︒これに対して恥ずかしい春期か ︖ ⽜の乳搾りで⾚⾯しちう系︖
て……お前︑思
﹁お と︑すまない︒レデの前でこんな格好は失礼か︒すぐに上を着てくるよ﹂
オメロはトコトコとさきいた場所へ上着を取りに戻る︒……⾜⾳可愛いな︑おい︒

﹁ジネトは平気なんだな︒オサンのブメランパンツ﹂
と︑ジネトを⾒ると︑顔を真⾚にさせていた︒挨拶はしたものの︑どうやら平気ではなかたらしい︒
﹁おう︑これでいいかな︖﹂
オメロが上着を⽻織て戻てきた︒…… て︑おい︕
下穿いてねじねか ︕海パンのまんまじ ん︕
﹁ま たく……以後気を付けてほしいものだね﹂
﹁そうですね︒少し照れますからね﹂
﹁いや︑これでいいの !?﹂
なんだか⼥⼦⼆⼈が﹁やれやれ﹂みたいな感じで納得してるんですけど!? 下半⾝まるで変わてないぞ!? お前らの羞恥ポイントてどこなの!?
……もしかして︑下半⾝はOKな街なのか︖
﹁な︑ジネト﹂
﹁はい︒なんですか︖﹂
﹁ち と尻を⾒せてくれないか︖﹂
﹁懺悔してください︕﹂ダメなんじ ん!?
……基準が分からね ……難し過ぎるだろ︑オルブルム…………
﹁で︑今⽇は何か⽤事でもあるのかい︖﹂
下半⾝ブメランパンツアライグマこと︑オメロが改めて尋ねてくる︒
﹁オメロさんは︑川漁ギルドの副ギルド⻑をされているんですよ﹂
﹁いや︑副ギルド⻑なんつても名前だけだけどな︑ははは﹂と︑得意顔で笑うオメロ︒なら︑こいつに話を通せばすんなり事が運ぶかもしれんな︒
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﹁川で捕れる⿂に関して少し相談したいことがあるんだが︑副ギルド⻑であるあんたからギルド
⻑に話を通してくれないか︖﹂
﹁い や︑むりむりむりむりむりむりむりむりむり︕﹂
す げ勢いで⾸と⼿が振られる︒物凄い拒絶反応だ︒
﹁親⽅に話しかけるなんて……オレ︑ビビ ちま て絶対無理だよ﹂
こんなデカいアライグマがここまで怯える親⽅て……どんだけ怖い⼈物なんだよ︖
﹁……親⽅はな……クマ⼈族の中でも⼀︑⼆を争う腕ぷしの強さで︑ここいらじ 敵うヤツなんかいないんだ︒おまけに︑すぐに⼿が出るし……⼿加減を知らね から何度死にかけた
か……﹂
﹁危険⼈物じねか︕﹂
﹁危険⼈物なんだよ︕﹂
オメロは必死の形相だ︒
そんなに怖いのか……すげ会いたくないんだが︒
﹁オメロ︒お前が川漁ギルドを代表して俺たちと交渉してくれねか︖﹂﹁そりあ無茶てもんだ ︕親⽅を無視して勝⼿なことをすりあ…………明⽇︑河原で洗われてるのはオレかもしれね ……﹂
﹁いや︑お前以外に河原で何かを洗うヤツいねだろ﹂
全⼈類がいろんなものを洗うと思うなよ︑このアライグマ︒
しかし︑クマ⼈族か…………なんとも嫌な予感がする︒
﹁よし︑帰ろう﹂
﹁ダメですよ︑ヤシロさん ︕きちんとお会いして話を聞いていただきましう︒ギルドを任されるような⽅ですから︑きといい⽅ですよ﹂
﹁お前のその根拠のない⾃信はどこから来るんだ︖﹂
﹁とはいえ︑会わないわけにもいかないんじ ないのかい︖﹂エステラが涼しい顔で⾔う︒
いいよな︑お前は︒部外者だから︒
﹁あの︑ヤシロさん︒ヤシロさんが不安なのでしたら︑わたしがお話をしましうか︖﹂
﹁ジネト︑お前は陽だまり亭を潰す気か︖﹂
﹁え !? なんでそうなるんですか!?﹂
もういい︒しうがない︒腹を決めるしかないだろう︒いざとなたらオメロを盾にして俺だけ逃げる︒よし︑この作戦でいこう︒
﹁親⽅なら︑この川の上流で漁をしているはずだ︒⾏けば分かるよ﹂オメロはそれだけ⾔うと︑そそくさと帰 てしま た︒ ……くそ︑なんか勘付かれたか!?
﹁それじ あ︑⾏きましうか︑ヤシロさん﹂
ジネトはどこまでも明るい︒分けてほしいよ︑その能天気さを︒
そんなことを思いつつ︑河原沿いの道を上流へと向かて歩いていく︒
﹁あ ︕あれはなんでしうか︖﹂
⼗数分歩いたところで︑ジネトが何かを⾒つけて声を上げた︒
川の中に少し浸るように置かれた⼤きな樽︒⼈間がすぽり⼊れそうな巨⼤さだ︒
……まさか︑あの中にいるわけじ ないよな︖
﹁⾏てみましう﹂
﹁あ︑おい︕﹂
ジネトが樽へと近付いていくので俺たちも急いで後を追う︒勝⼿な⾏動を取られては敵わ
ん︒あいつなら︑躓いて樽を川に落とすくらいのことはしでかしそうだからな︒
﹁わ ……お⿂がいぱいです﹂
俺たちが追いつく前に︑ジネトは樽の中を覗き込んでいた︒危機感のないヤツめ︒ジネトの隣に⽴ち中を覗き込むと︑中には無数の⿂が泳いでいた︒
﹁こいつは…………鮭︑か︖﹂
アゴのシクレ具合も︑鱗の⾊も︑傷付いたヒレも︑どれもこれもが完全に鮭だた︒
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⼿に取てもとよく⾒てみたいな︒と︑樽の中に⼿を伸ばした時──
﹁あたいの⿂を盗むつもりか︑お前ら!?﹂
突然︑背後から怒号が⾶んできて⼼臓が跳ねる︒
慌てて振り返ると︑そこには⼀⼈の⼥が⽴ていた︒
紫がかた⻑い髪を腰の辺りで⼀つに結び︑きりとした顔つきの美しい⼥だ︒
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180センチ弱くらいはありそうな⻑⾝と︑美しく引き締ま た⾁体が⽬を引く︒
その⾁体美のなせる業なのだろうが︑ホトパンツと胸だけを隠すチ ブト プのようなものしか⾝に着けていないにもかかわらず︑彼⼥はとてもオシレに⾒えた︒そして︑頭のてぺんにちこんちこんとついている丸こいクマ⽿︒
川漁ギルドのギルド⻑だというクマ⼈族は︑クマ⽿美⼥だた︒
だが︑そんなことよりも……
最も⽬を引いたのは︑引き締ま た体から不⾃然なまでに突き出した⼆つの膨らみ︒
﹁……デカい︕﹂
﹁そうですね︒⼤きな⽅ですね﹂
﹁ジネトちん︒ヤシロに同意しない⽅がいいよ︒彼は君とは違うものを⾒ているから﹂
なんとも張りのあるおぱいだ︒まるで︑⽪まで⾷べられるマスカトのようだ︒
﹁お前が⾸謀者か︖﹂
どすの利いた声が聞こえたと思た瞬間︑クマ⽿美⼥の腕が俺の襟⾸を締め上げた︒
も
﹁あたいの獲物を横取りしようなんて︑いい度胸じねか︕﹂ぐう !? なんつうパワだ!? こいつ︑本当に⼈間か!?
俺の体は軽々と持ち上げられ︑襟を締める指を解こうと両⼿でこじ開けにかかるがビクともしない︒
﹁あ︑あの ︕誤解です ︕わたしたちは⿂泥棒ではありません︕﹂
﹁本当か︖﹂
﹁はい ︕もしお疑いでしたら︑どうぞ︑わたしを﹃精霊の審判﹄におかけください﹂
﹁…………﹂
ピシ と背筋を伸ばして⽴つジネトを無⾔で⾒つめるクマ⽿美⼥︒
……あの︑とりあえず下ろしてくんないかな ︖ 苦しいんだけど……
﹁…………分かた︒お前を信じるよ﹂
﹁ありがとうございます﹂
ジネトが深々と頭を下げると︑クマ⽿美⼥はようやく俺を解放した︒
…… は ああ ︕空気のありがたさが⾝に沁みる︕
﹁悪かたな︑疑 ちま て﹂
﹁いいえ︒勝⼿に樽に近付いたわたしが悪いです︒申し訳ありませんでした﹂
﹁やめてくれよ︒これじ 堂々巡りだろ︖﹂
﹁はい︑ではここで幕引きといたしましう﹂
朗らかな笑みを交わし合うジネトとクマ⽿美⼥︒
……いや︑まず俺に謝れよ︑お前ら︒俺はジネトを⽌めようとしたんだぞ︒
﹁ヤシロ﹂
河原に蹲る俺のもとへ︑エステラが近寄てきて︑しがみ込む︒
慰めてくれるのか ︖いいヤツだな︑お前︒
﹁持ち上げられてもがいている時に⼆度ほど膝が巨乳に当たていたけど︑感想は︖﹂
﹁……そんなもん︑感じてる暇︑あたと思うか……︖﹂
こいつ……どこまで性根が腐てやがるんだ…………
﹁んで︑お前らは⼀体なんなんだ ︖あたいに何か⽤か︖﹂﹁はい︒わたしは陽だまり亭の店主でジネトと申します︒そして︑従業員のヤシロさんと︑お
⼿伝いをしてくださているエステラさんです﹂
エステラがいつ⼿伝いをしてくれたのか︑俺にはとんと覚えがない︒
﹁陽だまり亭て……あ ︕じ あお前らがゴミ回収ギルドをやてるヤツらか ︖いや︑モマトから聞いて会てみたいと思てたんだよ︒よく来てくれたな﹂
どうやら︑俺たちの噂を聞いていたらしく︑歓迎されてしま た︒
クマ⽿美⼥はこほんと咳払いをすると︑⼤きな胸を強調するように張て︑⾃信に満ち満ちた
表情で名乗りを上げた︒
﹁あたいが︑川漁ギルドのギルド⻑︑デリアだ︒よろしくな﹂
﹁こちらこそ︒よろしくお願いいたします﹂
差し出された⼿をギ と握るジネト︒……の︑⾜元で呼吸困難に陥ている俺︒な︑誰か俺を⼼配してくれても︑罰は当たらんと思うんだが︖
﹁それでお前ら︑ギルドより⾼く⾷材を買い取てくれるんだてな﹂
﹁それは違う﹂
その解釈には語弊がある︒俺たちゴミ回収ギルドが出来るのは︑あくまで﹃商品にならない廃棄物﹄を買い取る⾏為だ︒そして︑その買い取り価格が⾏商ギルドよりも少し割⾼というだけのことだ︒
どれだけを余剰分とするかは各々の勝⼿だが︑あまりに⽬につく⾏為を続ければ⾏商ギルドも黙 てはいないだろう︒
ゴミ回収ギルドが廃業に追いやられるだけならまだ可愛いもんだが︑⾏商ギルドのヤツらがそれだけで終わらせるはずもなく︑俺らと関わりを持 た者たちに必ずや鉄槌を下すだろう︒それこそ︑死⼈が出てもおかしくないほどの制裁をな︒
だいたい︑それ以前の問題として俺たちに資⾦の余裕はない︒つまり︑どんなに余剰分を⽤意してもらおうと︑俺たちが買い取れるのは﹃⾃分たちが必要な分だけ﹄だ︒
﹁変な期待をされても応えられないからな︒そこははきり⾔ておくぞ﹂
﹁じ あ︑具体的にどんなものを買てくれるんだよ︖﹂
具体的にか……
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﹁例えば︑⼤量に捕れ過ぎるもの︒もしくは捕れても売り物にならないもの︑だな﹂
﹁売り物にならないもの てんなら︑そこのが全部そうだ﹂
そう⾔て︑デリアはアゴで樽を指し⽰す︒
…………は ︖今︑なんと︖
﹁その⿂は⾝が⾚いんだ︒川⿂は⽩⾝と決ま てるだろ ︖だから︑⾚い⾝の川⿂なんて気味が悪くて⾷べられね て︑⾏商ギルドは買い取りを拒否してんだよ﹂バ……バカなのか︑⾏商ギルド!?
﹁焼いて⾷うと美味いんだけどな︒こいつはあたいら漁師しか⾷わない下⿂なんだよ﹂
﹁バカなことを⾔うな︕﹂
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鮭は⽇本⼈の⼼ ︕煮てよし焼いてよし加⼯してよしの最強⿂だろうが︕
これは︑買いだ︕
﹁とりあえず︑この⿂は定期的に欲しい︒捕れる時季はいつだ︖﹂
﹁こいつなら︑年がら年中ここで捕れるぜ﹂
﹁マジでか!? 異世界すげな︕﹂
﹁な︑なんだか︑ヤシロさんが熱いです!?﹂
﹁ホント︑理解しかねるね︑彼の⽣態は﹂
ふん ︕なんとでも⾔うがいい︕
鮭を⾷う習慣がないだなんて︑お前ら⼈⽣の半分を損してるんだぞ!?
﹁よし︒じ あ︑こいつを優先的に譲てくれ﹂
﹁いいのか ︖こんなもん出したて︑客は⾷わないぞ︖﹂
﹁なら俺が⾷う︒俺が⾷て︑こいつがいかに美味いかを分からせてやる﹂ここでの会話で︑俺は重要なワドを聞いている︒
﹃川⿂は⽩⾝と決ま てる︑⾚い⾝は気味が悪い﹄
なら︑客にはこう⾔てやればいいのだ︒﹃こいつは⼤海原を回遊した⾚い⾝の⿂﹄だと︒噓ではない︒捕れた場所は川だが︑こいつらは⼀度海に出て戻てきた⿂なのだ︒
こいつらが︑き ちりと鮭の外⾒をしていることからも︑それは確実だ︒同じサケ科でも川で
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⼀⽣を終えるヤマメとは外⾒がまるで違うからな︒⾃然界は噓を吐かない︒
﹁この⿂︑10キロ100Rbでどうだ︖﹂
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⽇本だと︑⼤きめの鮭⼀尾で三千円くらいだ︒で︑この鮭は3キロから4キロ てとこだか
ら︑⼀尾三百円程度で買おうて腹だ︒……さすがに買い叩き過ぎか︖
﹁そんなにいいのか!?﹂
﹁……え︖﹂
﹁お前︑いいヤツだな︕﹂
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デリアが俺の両⼿を取り︑ブンブンと上下に振る︒
やめろ ︕肩が ︕肩が外れる︕
﹁こいつはな︑あたいの⼤好物なんだが……どうも⼈気がなくてな ……ち と悲しかたん
だよ︑実際﹂
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⾃分が努⼒して捕らえた⿂を忌避されるのは︑漁師にとてはつらいことかもしれない︒寂しげな表情を⾒せたデリアは︑少し儚げに⾒えた︒
﹁でも︑お前はこいつに値をつけてくれた︒お前はいいヤツだ︕﹂
いや︒お前たちの無知を利⽤して買い叩いているだけだが︒
﹁実は︑⾏商ギルドの連中にさ︑﹃陽だまり亭と取引するなら買い取り価格を下げる﹄て脅されちま てんだよな﹂
﹁そう⾔われて︑なんで取引しようとしてんだよ︖﹂
﹁だて︑ムカつくだろ!? 命令されてるみたいでさ︕﹂
ま ︑確実に命令してんだろうけどな︒
﹁だから︑⾏商ギルドが嫌う﹃陽だまり亭﹄てのがどんな連中なのか︑この⽬で⾒てみたかたんだ﹂
﹁⾒た感想はどうだ︖﹂
﹁なんか︑可愛いな︕﹂
﹁いや……誰がジネトの⾒た⽬の話をして……﹂
﹁バカ ︕お前がだよ︕﹂
デリアはそう⾔うと︑俺の⾸に腕を回しグイと抱き寄せた︒
き︑巨乳が ︕巨乳が顔に !? ………………と︑思たのだが︒デリアの巨乳が頰に触れる⼨前︑エステラの⼿が俺の頰とデリアのおぱいの間に挟み込まれた︒
﹁えい︑エステラ ︕なぜ邪魔をする!?﹂
﹁商談相⼿から賄賂をもらうのは︑交渉⼈として失格だと思たものでね﹂
﹁賄賂ではない ︕誠意だ︕﹂
﹁……君は汚職塗れの為政者のようだね﹂
くそ ︕この⼿の向こうにぽよんぽよんが待ているというのに ︕張りのある︑ダイナマ
イツなぽよんぽよんが ︕
﹁ん ︖あ︑悪い悪い ︕男にこういうことしちいけないんだ けな﹂
エステラの妨害のせいで︑無防備なおぱいが警戒レベルを上げてしま た︒
デリアは俺を拘束していた腕を離し︑俺を解放する︒くそ ︕もうち とだたのに ︕
﹁…………なんて︑弾⼒なんだ……﹂
俺の邪魔をしたエステラが︑俺以上にへこんでいる︒
何がしたかたんだよ︑お前は︒
﹁とにかく ︕あたいはお前らが気に⼊た ︕ ⾏商ギルドが難癖つけてくるかもしれないが︑そんなもんは知らん ︕あたいにケンカを売る勇気があるなら買てやるさ︕﹂
⾏商ギルドも︑こういうタイプ相⼿には交渉がしにくいだろうな︒﹁しかし︑君だけの判断で川漁ギルド全員の⽣活を脅かすわけにはいくまい︖﹂
﹁川漁ギルド全員の︖﹂
あ︑こいつ︑分かてないんだ︒
エステラがそのあたりのことを嚙み砕いて説明し始める︒
﹁陽だまり亭には⾦銭的余裕はない︒よて︑⾃分たちで使う分しか買い取ることは出来ない︒その⾦額は︑決して川漁ギルド全員の⽣活を保障出来るものではない﹂うんうんと︑デリアは頷きながら話を聞いている︒
﹁必然的に︑川漁ギルドは今後も⾏商ギルドと付き合いを継続する必要がある︒その際︑陽だま
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り亭に加担したせいで不利な条件を吹かけられる危険があるてことだよ﹂
﹁つまり……殴て黙らせればいいのか︖﹂
﹁いや︑違う︒そうじ なくて……ヤシロ︑パス……﹂
エステラから選⼿交代の要請が来た︒理詰めが通⽤しない相⼿には弱いらしいな︒たく︑しうがね な︒
﹁デリア︑⾏商ギルドにはこう⾔ておけ﹂
この⼿のタイプには︑簡潔に︑分かりやすく︑それ以外考える余地のないことを端的に告げる
に限る︒
﹁﹃陽だまり亭には︑⾚い⾝の川⿂を売てやることにした﹄てな﹂
⾏商ギルドが売り物にならないと判断している下⿂︒それを売りつけてや
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川漁ギルドが陽だまり亭との商談を突ぱねたという意味合いになる︒
まさしく﹃売り物にならないゴミを売りつけた﹄ということになるのだ︒
たということは︑
このオルブルムにおける物の価値と︑⾼⽔準の知識を有する者が相⼿だからこそ︑有効的な⼀⾔だと⾔ていい︒
そう⾔ておけば︑⾏商ギルドも当⾯は川漁ギルドに対して⾵当たりを強くすることもないだろう︒ついでに︑俺らゴミ回収ギルドへの警戒が弱まればさらに都合がいい︒
ちなみに︑﹃⾚い⾝の⿂以外は売らない﹄とは⾔ていないところも重要なポイントだ︒
﹁そう⾔えばいいんだな ︖よし︑分かた ︕んじ あ︑そう⾔とく︕﹂
たぶん︑デリアは俺の意図するところを何⼀つ理解していないのだろう︒
だが︑それだからこそ︑⾏商ギルドに探りを⼊れられてもボロが出ることはないはずだ︒理解していないヤツは隠す以前に何も知らないのだから︒
こいつは事実だけを⾔えばいいのだ︒そして︑その事実をどう解釈するかは相⼿の勝⼿︑ということだ︒
﹁君にしては︑まともな交渉だたね﹂
﹁俺は︑こう⾒えて善⼈なんだぞ︖﹂﹁その⾔葉……今回だけは﹃精霊の審判﹄にかけないでおいてあげるよ﹂
まるで信じられていないようだが……ま いい︒俺は俺なりの﹃交渉術﹄で⾷材を集めてやる
さ︒
確かな⼿応えを感じつつ︑俺たちは河原沿いの道を引き返していた︒
