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Isekai Sagishi V2C4

 04﹃笑顔のために﹄

マグダの初狩(はつが)り成功から⼆⽇()た朝︒

現在︑絶賛改装中の()だまり(てい)︒その⽞関先(げんかんさき)に︑エステラが⽴ている︒

⼿には包みを持 ており︑ドアの前で⼤きく深呼吸をする︒

……⼤丈夫︒きと上⼿く出来る﹂

 そう呟いた後︑ニコ と笑顔を作る︒

 が︑気に⼊らなかたのか⼩⾸を(かし)げ難しい顔をする︒

……これじ いつもと変わらないか……よし︕﹂

 そして︑先ほどよりもにこりと笑い︑(まぶ)しいほどに⽩い⻭を(のぞ)かせる︒

……何かが違う…………そうだな︑セリフを⼊れてみるか﹂

 時刻は早朝︒改装⼯事を請け負うトルベク⼯務店の⾯々はまだ現場に来ていない︒

 ドアの前にいるのはエステラ⼀⼈だ︒

﹁や︑ヤシロ︕﹂

(だれ)もいない場所で︑エステラはドアに向かて笑顔を⾒せる︒  当然︑この店のドアには﹃ヤシロ﹄なんて名前は付いていない︒

﹁ヤシロ︑(たの)まれていたものを持 てきたよ︕﹂

 エステラが笑顔で話しかけるも返事はない︒ドアは何もしべらない︒

﹁いや︑結構苦労したんだよ︒感謝してほしいものだね︕﹂

 エステラ︑笑顔︒ドア︑無⾔︒

……何かが違う…………

 何もかもが違うと思うのだが︒

﹁そうだ ︕ジネトちんのマネをしてみよう﹂

ならまずおぱいを育てないとね︕

﹁ヤシロさん  ︕おはようございます  ︕ にこ ︕﹂

うわ …………つか︑⾃分で⾔てその半端(はんぱ)ない()和感(わかん)悶絶(もんぜつ)してるし︒

(うずくま) て顔を()せ︑(かた)をプルプル(ふる)わせている︒⽿まで真⾚だ︒

⻑年︑多くの客を(むか)え⼊れてきた年季の⼊たこのドアも︑まさか最後の仕事がエステラの笑顔の練習台になるとは思てもみなかただろう︒ご苦労さんだな︑お前も︒

で︑陽だまり亭の店先で絶賛悶絶中のエステラを︑店の(かげ)からジ と覗き⾒ているのがこの俺︑オオバヤシロだ︒

﹁何やてんだお前︖﹂

﹁んな !?

声をかけると︑エステラは驚愕(きようがく)の表情でこちらを向き︑俺の姿を確認(かくにん)すると全⼒のエビ以上

の速度で後⽅に⾶び退いた︒

﹁な︑な︑なんでいるんだ︑ヤシロ!?

﹁なんでて……便所⾏た帰りだが︖﹂

﹁い︑いいいいい︑いいいい︑いい︑いつから⾒ていた !?

﹁﹃……⼤丈夫︒きと上⼿く出来る﹄からだが︖﹂

﹁最初じ ないか ︕そこにいるなら声をかけておくれよ︕﹂

俺は︑建物の陰から出て︑エステラの前へと歩み寄る︒

﹁いや︑なに︒⼀昨⽇(おととい)からお前の元気がなかたからち とは⼼配していたんだが……なんか

すげ楽しそうで安⼼したよ﹂

﹁た︑たた︑楽しくなんかないよ  ︕⽳があたら⼊りたい気分だよ︕﹂

その⽳を()めたら﹁何するんだい !?﹂て⾶び出してきそうな勢いで(いか)りをぶちまけるエステラ︒⼋つ当たりもいいとこだ︒




﹁で︑何がしたかたんだよ︑さきの百⾯相は︖﹂

﹁く︑空気を読んで︑そこは触れないでくれないかな

﹁胸のないお前に⾔われたくない﹂

﹁デリカシ ないよね︑ホントに!?

﹁デリカシ﹃は﹄︑なくても⽣きていける﹂


!? デリカシがないね︕﹂﹁胸がなくても⽣きていけるよ ︕ ……誰の胸がないか !?﹂朝から楽しそうなヤツだ︒

﹁き︑君が…………

怒り満⾯だたエステラが︑少し泣きそうな表情を⾒せる︒ん……こんな顔は初めて⾒るな︒

……ボクのパイオツが︑カイデじ ないて⾔うから……

うん︒お前のパイオツは全然カイデじ ないよ︒むしろ﹃無いデ﹄だな︒

﹁笑顔には︑割と⾃信があたんだ……なのに︑あんな全⼒の否定を…………﹂あ……そうか︒

こいつは⾃分の﹃笑顔﹄が﹃素敵じ ない﹄と⾔われたのだと思ているわけか︒

﹁あ︑いや︑あのだな︑エステラ﹂

﹁なんだい ︖これ以上まだボクを(おとし)める気かい︖﹂なんだか随分(ずいぶん)とへそを曲げている︒

﹁それには誤解がある……というか︑あの解釈(かいしやく)はジネトが勝⼿に思い込んでいるだけで︑本来の意味はそんなところにはない﹂

……どういうことだい︖﹂

(くわ)しくは⾔えん︕﹂

!?……そ︑そう︑なのかい︖﹂

 ここは勢いで誤魔化す︒絶対本当の意味は教えられない︒

﹁だが︑とにかく︑お前の笑顔(えがお)を貶めたわけでも︑否定したわけでもないんだ︒そこだけは信じてくれ﹂

出来る限りの誠意をもてそう(うつた)える︒……ま ︑俺のせいでなんか傷付けたみたいだし…… こいつにはまだまだいろいろと役⽴てもらわなき困るしな︒⼈間関係を(こじ)らせるのは得策ではない︒

そのためにもきちんと誤解を解いておきたい︒

詐欺師には︑信⽤が⼤切なのだ︒

……君を信じろというのは︑⿂に﹃空を⾶べ﹄と⾔うようなものだと思うのだけど︖﹂

……てめ﹂

⼈間関係拗らせる気満々か︑こいつ︒

﹁じ︑じ あ聞くけどさ……

両腕(りよううで)を後ろ⼿に組み︑⾜元の⼟をつま先でいじりながら︑エステラはやや上⽬遣(うわめづか)いで(たず)ねてくる︒

﹁ボクの笑顔は…………どう︑かな︖﹂

うわ……やべ……⼀瞬(いつしゆん)可愛(かわい)いとか思ち た︒

が︑こいつにそんなこと⾔えるわけがない︒

そんな弱みを⾒せたら︑こいつは何を⾔てくるか分かたもんじ ないからな︒

…………ノコメントで﹂

﹁帰る﹂

﹁待て ︕その荷物だけでも置いていけ︕﹂

﹁7万Rb︕﹂

﹁素敵だ︑エステラ ︕お前の笑顔は最⾼だぜ︕﹂

﹁そこまで(うそ)くさい⾔葉を︑ボクはいまだかつて聞いたことがないよ︕﹂いや︑素敵だと思ているのはマジなんだが︒信じちくれないか……

﹁よし︒じ あ︑﹃精霊(せいれい)審判(しんぱん)﹄をかけてみろ﹂

﹁え…………︖﹂

﹁今の俺の発⾔に噓があるかどうか︑その⽬で確かめるがいいさ﹂

素敵だと思ているのは本当だ︒……ただ︑発したタイミングがち と悪かただけで︒なので︑俺がカエルになることは100%ない︒

﹁さ︑やれよ﹂

両腕を広げてみせる︒いつでも来いだ︒

﹁いや……いいよ﹂

しかし︑エステラは﹃精霊の審判﹄を発動させなかた︒﹁そもそも︑それは﹃精霊の審判﹄の領域じ ないからね﹂

あ︑そうか︒思う思わないてのは﹃精霊の審判﹄では裁けないのか︒

う ん︑しくじ たな︒

﹁でも……

俺が(おのれ)選択(せんたく)ミスを()やんでいると︑エステラが(つぶや)くように声を()らす︒

⾒ると︑いつになく(やわ)らかい表情で俺を⾒るエステラと⽬が合 た︒

﹁そこまで⾔てくれるなら……信じるよ︑君を﹂

﹁いいのか ︖⿂は空を⾶べないぞ﹂

﹁ホント︑意地が悪いよね︑君は﹂

そう⾔てエステラは︑楽しそうに笑た︒

﹁とにかく⼊ろうぜ︒朝は寒い﹂

﹁そうだね︒あ︑でも先に⾏ててくれないかな︖﹂

﹁ん ︖ なんだよ︖﹂

﹁いいから︒ほら︑コレ︒頼まれていたものだから︑コレを持 て先に⾏てて﹂

……なんだよ︒あ︑トイレか﹂

﹁ホントに君はデリカシがないよね !?

ドアを開け︑背中を突き⾶ばされた︒

前につんのめるように室内へ(ほう)り込まれ︑()り返ると同時にドアが閉められる︒

ま たく︑トイレくらいで乱暴な…………はて︑本当にそうか︖

エステラの態度に何か引かかりを感じた俺は︑そ と︑(いた)んだ⽊のドアを開く︒隙間(すきま)から外を(のぞ)くと……

…………ふふ﹂

エステラが︑宙に()いた半透明(はんとうめい)の板を⾒つめてニヤケていた︒……うわ︑(こわ)

ここで⾒つかると﹁⾒ た な ︕﹂と⼭姥(やまんば)化しそうな雰囲(ふんい)()だ たので︑バレないようにそ とドアを閉じた︒

カンバセ シヨン・レコド

さきの半透明の板は︑﹃会話記録﹄か ︖ 何を⾒てたんだか……

ま ︑⽤事が済めばそのうち勝⼿に⼊てくるだろう︒そう思い︑俺は受け取た荷物を⼿に

リフ ム終了(しゆうりよう)までの間仮設リビングとしている⼆階の部屋へと向かた︒中庭を()けて︑⼆階へ上がり︑仮設リビングのドアを開けると──ジネ トが﹃(カンバセ)(シヨン・)

レコド                    なが

録﹄を眺めてニヤニヤしていた︒……ジネト︑お前もか︒

﹁はわ  ︕ヤシロさささささんん !?

⾯⽩(おもしろ)いとこ()んだな︒後半嚙むヤツは(めずら)しいぞ︒

﹁何してんだよ︖﹂

﹁あ︑いえ……その…………ち と︑忘れたくないことを忘れないように……

カンバセ シヨン・レコド

ほ︑なるほどな︒﹃会話記録﹄はそうやてメモ代わりに使うことも出来るのか︒確かに︑⼀度⼝にした⾔葉なら記録が残るんだから︑理に(かな)た使い⽅だな︒

……マグダは知ている﹂

﹁おう !?……い︑いたのか︑マグダ﹂

いつの間にか俺の背後にピタリと寄り添うようにマグダが⽴ていた︒気配がなかた……さすがネコ科……

……店⻑は︑ここでのヤシロの⾔葉を何度も読み返している﹂

﹁マグダさん !?

﹁俺の⾔葉 ︖俺︑なんか⾔たか︖﹂

……﹃どうて……いや︑可愛いけど︖﹄﹂

﹁マグダさん

……⾒た﹂


!? なんで︑何もかも知てるんですか !?


﹁いつ⾒たんですか !? もう︕﹂

ジネトが(あわ)てた様⼦でマグダの⼝を(ふさ)ぐ︒

﹁あ︑あああ︑あの︑ちが︑(ちが)うんですよヤシロさん ︕ 別に︑珍しく()められたのが(うれ)しか

たとか︑可愛いとか男の⼈に⾔われることがこれまで全然なかたからとか︑そういうことでは

なくて︑あの……ですから︑つまり……

……読み返すと元気が出る﹂

﹁そうなんですけど ︕そうなんですけど︑ち とだけ静かに願います︑マグダさん︕﹂ジネトが半泣きだ︒……なんだろうか︑この(さわ)がしさは︒

つか…………俺の⾔葉で元気出るとか…………なんか︑照れるわ︒

﹁うわ︑どうしたんだいジネトちん!?

そんな中︑エステラが仮設リビングへとやて来る︒

﹁ヤシロ ……

﹁待て待て︒真先に俺を疑う(くせ)を直せ︒下⼿⼈はマグダだ﹂

﹁マグダが……︖﹂

カンバセ シヨン・レコド

……店⻑が﹃会話記録﹄を読み返してニヤニヤしていた件について﹂

── !?

マグダの⼀⾔で︑なぜかエステラが勢いよく顔を(そむ)けた︒……⽿が⾚い︒

﹁そ︑そんなことよりも︑今⽇の予定を話し合わないかい︖﹂

﹁そ︑そうですよね ︕そうしましう ︕建設的に︕﹂

ジネトの慌てぷりはともかく︑エステラのこの反応……

カンバセ シヨン・レコド

﹁な︑エステラ︒お前さき表で﹃会話記録﹄を……

﹁ところでどうだたかな︑ボクの持 てきた物は ︖ 役に⽴ちそうかい!?強引(ごういん)な話題転換(てんかん)……やぱりこいつ……

(ぬす)み聞きしたエロい会話でも読み返してたな︖﹂

……そういう⽬でボクを⾒るの︑やめてくれないかな︖﹂

先ほどまで上気して薄桃⾊(うすももいろ)だたエステラの(ほお)が︑⼀瞬で()の⾊に(もど)た︒

あ︑これがドン引きてヤツか︒すげ冷めた⽬で⾒られてる︒

﹁今⽇はし かりと作戦を⽴てて⾏きまし うね︒昨⽇は残念な結果にな てしまいましたか

ら﹂

ジネトが仕切り直し︑俺たちは仮設リビングのテブルに着いた︒

そう︒昨⽇俺たちは苦汁(くじゆう)()めさせられたのだ︒⼀昨⽇(おととい)に引き続き︑昨⽇もマグダの()りに同⾏する予定を組んでいたのだが︑俺たちはそればかりに時間を()いていられる⽴場ではない︒まだまだ交渉(こうしよう)に出向かなければいけない場所が残ているのだ︒

そんなわけで︑狩りの前の⼀仕事とばかりに︑早朝よりゴミ回収ギルドとして⽶農家に交渉に出向いたのだ︒

だが──﹁お前らに売てやる⽶はね︒﹃⼀回捨てて︑それを買い取る﹄︖ バカ⾔うんじねよ ︕丹精(たんせい)込めて作た⽶を捨てるなんざ出来るか ︕ただでさえ⽣産量がギリギリだ

てのに ︕そんなふざけた話をしに来たんなら帰 てくれ ︕ ⼆度と来るな︕﹂──と︑カモ⼈族の⽶農家ホメロスに追い返されてしま たのだ︒

これで︑⽶を⼿に⼊れるのが難しくなてしま た……

おのれ︑ホメロスめ︒俺に向かて⾔たセリフ︑たたの⼀⾔も忘れるなよ……

あいつも︑﹃(たた)(つぶ)しても⼼が痛まないリスト﹄に⼊れてやろうか…… たく︒

とりあえずあのカモヤロウは︑今度会 た時にでも︑背中にネギを(くく)りつけてやることにする︒リアルカモネギだ︒搾取(さくしゆ)されまくるがいい︑カモだけに︕

﹁あのヤシロさん……顔が︑怖いですよ︖﹂

﹁いや︑なに︑ち とした思い出し苛⽴(いらだ)ちだ︒……あのカモヤロウ…………

﹁あ︑あの……落ち着いてください︑ね ︖あの︑お茶︑淹れましうか︖﹂ジネトの淹れてくれたお茶を⼀気飲みして⼼を落ち着ける︒

(まこと)に残念な結果ではあたが︑ダメなものはどんなに(ねば)てもダメなのだ︒もと別の切り⼝

で攻める必要がある……が︑俺たちは⽶ばかりに時間を割いているわけにはいかない︒なにせ︑

⾷堂には各種︑様々な⾷材が必要なのだからな︒

で︑⽶が空振(からぶ)りに終わたため︑その⾜ですぐさま向かたのが︑養鶏(ようけい)場だ︒

……そう︒俺が初めてこの四⼗⼆区で夜明かしした⽇の朝に出会た⿃顔の⼥︑ニワトリ⼈族のネフリの家だた︒

再会するなり︑﹁あ  ︕あの時のセクハラ男︕﹂と︑指を差された時の︑周りの冷たい視線

といたら……だてよ︑ニワトリ顔のヤツが卵持 てたら︑そいつが産んだと思うじ ん︑普 (つう) ︖それがセクハラとか…………この世界︑やりにく︒

とま ︑そんな過去のいざこざは⼀旦脇(いつたんわき)に置いて︑俺たちは卵を定期的に融通(ゆうずう)してくれるよう

に交渉を開始した︒

卵はいろんな料理に使える万能(ばんのう)⾷材だ︒()()とも欲しい︒それも毎⽉︑安定してだ︒

だが︑懸命(けんめい)な交渉も(むな)しく︑俺たちは成果を挙げることが出来なかたのだ︒まさに空振り︒……昨⽇は散々な⼀⽇だた︒

﹁まさか︑ニワトリが卵を産まなくなているとはね ……﹂エステラがため息を漏らす︒

ネフリの家では常時⼆百⽻近いニワトリが飼育されているのだが︑そのうち四分の三程度が⽣後⼗ ⽉ほどで卵を産まなくなてしまうのだそうだ︒

それ(ゆえ)に︑卵の数も⾜りておらず︑⾏商ギルドに(おろ)す分だけでいぱいいぱいなのだと断ら

れてしま た︒

﹁困りましたね︒卵はたくさん必要になりますし……

……⽟⼦焼き︑()()しい﹂

ジネトが困り顔でため息を漏らし︑マグダは無表情のままよだれを垂らした︒ ておい︑マグダ︒

﹁卵を産まないニワトリはすぐに屠畜(とちく)して⾁にしてしまうそうだね﹂

﹁でも︑お⾁は狩猟(しゆりよう)ギルドさんから美味しいものが出回 ていて︑売り上げはあまりよくない

とおし ていましたね﹂

だもんで︑卵が産めなくなた廃鶏(はいけい)の⾁などでは市場で()()()ち出来ないのだ︒

この街の養鶏場は︑卵こそが⾦を⽣む︒

﹁卵をたくさん⼿に⼊れるためには︑ニワトリの数を増やすしかないんだろうけど……

﹁でも︑それですと︑ニワトリさんがまるで使い捨てのようで……ち と︑可哀想(かわいそう)です﹂家畜に可哀想も何もないと思うが……ま ︑ジネトならそうかもな︒﹁だからこそ︑俺が⼒を貸してやろうて⾔たんだよ﹂

交渉の後にそんな事情を聞き︑重い空気に包まれた養鶏場で︑俺は困り顔のネフ リ に対し……ま ︑顔が完全にニワトリなんで困ててもあんまり伝わてこなかたんだけど……⼀つの提案をした︒

﹃もう卵を産まなくなたニワトリを百⽻(ゆず)てもらい︑そいつらが卵を産むようになれば︑その卵を俺たちに売てもらう﹄──というものだ︒

捨てる卵を買うのではなく︑処分されるニワトリを⼀時的に借り受けてそいつらに卵を産ませようというわけだ︒これも︑﹃捨てる物を買う﹄ゴミ回収ギルドの範疇(はんちゆう)に違いない︒

もとも︑百⽻ものニワトリを俺たちがもらてきても飼う場所がないので︑そこは﹃養鶏場に預ける﹄ということにしてもらた︒

要するに︑俺たちが⾦を出し︑俺たちの代わりにネフリが百⽻のニワトリの世話をするという契約(けいやく)だ︒

鶏舎が埋ま たままになるため新しいニワトリを増やせなくなるのだが︑もともと屠畜に否定的だたネフリは⼆つ返事で引き受けてくれた︒

ただ︑卵を産まなくなたニワトリが再び卵を産むようになるてのは︑信じていなかたようだが︒

﹁でも︑まさかヤシロが率先(そつせん)して⼈助けをすると⾔い出すなんてね﹂﹁俺の半分は﹃(やさ)しさ﹄で出来ているからな﹂

すげだろ︒アノ頭痛薬と⼀緒(いつしよ)だぞ ︖むしろ俺の⽅がち と多いくらいだ︒

﹁あそこで名乗りを上げた⽅が︑後々の利益に(つな)がると考えてのことだろう︖ 君が優しいのは︑⾃分に対してじ ないのかい︖﹂ ……む︒ま ︑その通りだけども︒

エステラは⾃信ありげな表情で俺の⼼理を読み解いていく︒

﹁ヤシロは︑ニワトリが卵を産まなくなた原因に⼼当たりがあり︑改善する⾃信があた︒その知識を卵の独占(どくせん)権と引き()えにしたというわけだ﹂

﹁優先的に売買出来る権利と⾔てもらいたいな﹂

﹁同じだろう︖﹂

﹁聞こえ⽅が違う︒独占と⾔うと︑どうもいやらしく聞こえる﹂

俺はもと清い⼼でその契約を交わしたのだ︒

﹁でも︑ニワトリさんが卵を産むようになればネフリさんも喜びますし︑ウチも助かります

し︑いいこと尽くめですね﹂

そうそう︑ジネト︒そういうことだ︒やぱりジネトはよく分かている︒

……ヤシロ︑ネフリにセクハラするほどお気に⼊り﹂いや︑そういう下⼼はないぞマグダよ︒

分かるよな ︖お前は分かる娘だよな ︖ な︖

﹁それで︑卵とこのゴミが何か関係あるのかい︖﹂

エステラが︑先ほど⾃分で持 てきた包みをぽんぽん叩いて⾔う︒

中⾝を知ているエステラは︑これがどう関係してくるのか気になているようだ︒

﹁これはなんなんですか︖﹂

ジネトとマグダが興味深そうに包みを⾒つめている︒

ま ︑もたいぶるようなことでもないので︑この場で包みを開け中⾝を確認(かくにん)する︒

中から出てきたのは︑無数の⾙殻(かいがら)だ た︒カキを中⼼に︑ホタテやハマグリなんかも交ざている︒……あるんだな︑この世界にも︒

﹁ヤシロさん︑これは︖﹂

﹁エステラが海の⿂を捕りに⾏ていただろ ︖そのツテで⼿に⼊らないか聞いてみたんだが︑

想像以上の収穫(しゆうかく)だな﹂

﹁君が(うれ)しそうにしている理由がさぱり分からないんだけど﹂

﹁そうですね……⾙殻と卵になんの関係が……︖﹂

……殻は︑⾷べられない﹂

マグダがカキの⾙殻を指で摘まんで⾔う︒

ま ︑確かに⾙殻は⾷えないよな︒

﹁⼈間は︑な﹂

﹁え︑……では︑これを︖﹂

﹁そう︒ニワトリに⾷わせる﹂

虐待(ぎやくたい)はよしなよ︑ヤシロ﹂

﹁あの︑(のど)()ま ちいますよ﹂

……⿃には⻭がない﹂

(だれ)が丸ごと⾷わせると⾔たか!? 粉々に(くだ)いてやるんだよ﹂ハンマで叩き割 て粉々にするのだ︒

﹁しかし︑⾙殻なんて本当に⾷べるのかい︖﹂

﹁⾷う︒もちろん︑ネフリに⽤意させているものと⼀緒に(あた)えるのだが﹂

﹁ネフリさんも何か⽤意されているんですか︖﹂

﹁あ︒⽶糠(こめぬか)と︑⿂のアラ︑あとクズ野菜を細かく切た物を混ぜ合わせた特製のエサだ﹂これまで︑ネフリの養鶏場では︑主に⽶を与えていたらしい︒

炊いて潰した⽶はニワトリの⼤好物で︑それはよく⾷べたと⾔う︒

そこに︑落とし⽳があたのだ︒

⽇本にいる(ころ)に︑チラ と⼩⽿に(はさ)んだのだが︑ニワトリは⽶だけで飼育すると卵を産まなくなるらしい︒それに︑温めたデンプンはニワトリの消化器官の⼀つ﹃そのう﹄で炎症(えんしよう)を起こす原因になることがある︒なので︑炊いたご飯は(ひか)えた⽅がいい︒

そこら辺を踏まえて︑俺はネフリにエサ作りのアドバイスをしてやたのだ︒

﹁⾙の殻は︑卵の殻を⽣成するために必要なカルシウムの宝庫だ﹂

砕いた⾙殻をエサに混ぜて与えていれば︑いつかまた卵を産むようになるだろう︒

クズ野菜はモ マ トたちから融通してもら たし︑⿂のアラはエステラに当てがあるらしい︒つか︑エステラ︒そんな相⼿がいるなら俺に紹介(しようかい)しろよ︒海⿂︑欲しいんだから︒

﹁な︑エステラ︒海漁ギルドのヤツ紹介してくれよ︒別にお前の顔を潰すような失礼な真似は

しないぞ︖﹂

……その⾔葉を信⽤させてくれたら考えてあげるよ﹂

﹁これが(うそ)を⾔ているような⽬に⾒えるか︖﹂

﹁⾒える︒やり直し﹂

﹁俺がお前を(だま)したことがあるか︖﹂

﹁やり直し ︕﹂

まるで信⽤されていないようだ︒⼼外な……

﹁ま ︑海漁ギルドはまた後でいい︒今は卵だ﹂俺の⾔う通りのエサを与えていれば︑数⽇でまた卵を産むようになるだろう︒

﹁では早速(さつそく)︑この⾙をネフリさんのところへ持 ていきましう﹂

そういうことで話し合いは終了(しゆうりよう)し︑俺たちは⾙殻を持 て養鶏(ようけい)場へ向かた︒

俺たちが養鶏場に着くと︑ネフリが俺の伝授したエサの仕込みをしていた︒

﹁あ︑ヤシロ﹂

完全ニワトリ顔の少⼥︑ネフリ︒

最初こそあまりいい印象を持たれていなかたようだが︑話をするうちに徐々(じよじよ)に打ち解けてい

た︒

﹁⾔われたエサを作てるんだけど︑これでいいのかな ︖ち と⾒てくれる︖﹂

﹁おう︑お安い御⽤だ﹂

俺は︑⼤きな(たる)にぎしりと詰め込まれた⽶糠をかき混ぜる︒⽶糠の中に⿂のアラやクズ野菜

が⾒える︒まだ混ざりきてはいないが︑こんなもんだろう︒

⼤丈夫(だいじようぶ)だな﹂

俺がOKを出すと︑ネフリはホと胸を撫で下ろした︒

胸がち と⽴派に⾒えるのは︑鳩胸(はとむね)だからかな ︖あ︑ニワトリか︒

﹁やてみると結構⼤変なのね︑これ﹂

﹁⽣き物を育てるてのは︑そういう⼤変さの積み重ねなんじ ないのか︖﹂

﹁それはそうなんだけど……ずとやてたから(こし)が痛くなち た﹂

﹁揉んでやろうか︖﹂

﹁や だ︑も  ︕ヤシロのエチ︕﹂

そう⾔て右⼿でぺしりと俺の(かた)(たた)き︑左⼿は(うす)く染まる(ほお)を押さえている︒

とても⼥の⼦らしい仕草だ︒……だが︑顔が完全にニワトリなので﹁何やてんだこの⿃︖﹂という感想しか(いだ)けないのが残念だ︒あ︑残念だ︒

﹁そのエサに︑こいつを混ぜて⾷わせてやるといい﹂

﹁あ︑それが⾙︖﹂

﹁丸ごと⾷わせるんじ ないぞ ︖ハンマで粉々にするんだ﹂

﹁やだ︑も  ︕分かてるて︒うふふ……ヤシロて⾯⽩(おもしろ)い⼈ね﹂

昭和の(かお)(ただよ)う⻘春映画のような⾔い回しだが……顔がニワトリ︒とてもシ ルだ︒

﹁ホント⾔うとね︑実はまだ半信半疑なの﹂

ネフリが⾙の⼊た包みを(かか)え︑そんなことを(つぶや)く︒﹁こんなことで︑本当に卵を産んでくれるのか……あ︑でも︑ヤシロを疑 てるわけじ なくて……これまでずと奇跡(きせき)を信じて︑その期待はことごとく裏切られてきたから﹂

廃鶏(はいけい)になた⿃がもう⼀度卵を産むようにお(いの)りでもしていたのだろうが︑そんなことでニワトリは卵を産むようにはならない︒

これまで︑何度もそうやて悲しい思いをしてきたのだろう︒ネフリはとても(さび)しそうな

(ひとみ)をしていた︒…………ただ︑顔はニワトリ……

﹁俺のことは︑別に信じなくていいよ﹂

﹁え︖﹂

﹁お前はただ︑あいつらのことだけを信じていてやれよ﹂

そう⾔て︑鶏舎の中のニワトリをアゴで指し⽰す︒

﹁あいつらはきとまた卵を産む︒お前はそれだけを信じていろ﹂

﹁ヤシロ…………うん︒私︑信じる﹂

ネフリが⽬尻(めじり)を指で撫でる︒

﹁へへ︑ごめんね︒こんな顔⾒せち て﹂

こんな顔て︑ニワトリてこと ︖お前︑ずとさらしぱなしだけど︖

﹁私がし かりしなくちだよね ︕でなき︑みんなが()()しい卵産めないもんね﹂そう⾔て︑両腕(りよううで)で⼒こぶを作るマネをする︒なんなら︑お前が産みあいいんじね︖

﹁んじ︑俺らは帰るから﹂

﹁うん︒気を付けてね︒あ︑それと︑⾙︑ありがと﹂

﹁おう﹂

⽤事を済ませ︑俺たちは養鶏場を後にする︒

ま ︑⾒てろて︒今にビクリするからよ︒

﹁ヤシロさん﹂

養鶏場へ着くなり鶏舎に⼊てニワトリを⾒ていたジネトが︑俺の(となり)へ歩いてくる︒こいつ

はずとニワトリに︑﹁頑張(がんば)りましうね﹂と声をかけていたのだ︒

﹁産まれるといいですね︑卵﹂

﹁産まれるさ﹂

俺が断⾔すると︑ジネトはにこりと笑う︒

──そして数⽇後の朝︒

俺が思ていたよりもはるかに早く︑吉報(きつぽう)()い込んでくるのだた︒

早朝︒

陽だまり亭のドアが激しく連打され︑俺たちは叩き起こされた︒やて来たのは養鶏場のネフリだた︒

﹁産んだ ︕産んだのよ ︕卵が産まれたの ︕﹂

……おめでたか ︖おめでとう﹂

﹁私じ ないよ ︕セクハラすると突つくよ!?

ニワトリ顔のネフリが頰を染めて俺に(くちばし)を向ける︒

熱烈(ねつれつ)なキスをしてくれるてことか︖﹂

﹁な !? ち︑(ちが)うもん ︕んもう ︕バカバカバカ︕﹂

⼤いに照れて︑俺をぱかぱか(なぐ)てくる︒

……あ︑全然萌えね︒ニワトリ顔︑萌えないわ …………

﹁とにかく来て ︕ヤシロに⾒せたいのよ︕﹂

強引(ごういん)(うで)を引かれ︑俺は()()()姿のまま連れ出された︒

ジネトとマグダも寝間着に上着を⽻織ただけの格好で付いてくる︒

養鶏場に着くと︑ネフリの家族がコケコケ⾔いながら(おど)(くる) ていた︒

……なんの儀式(ぎしき)だ ︖ ⼦供が⾒たら恐怖(きようふ)で夜トイレに⾏けなくなりそうな光景だな﹂

﹁失敬ね ︕うちの家族に対して︕﹂

ニワトリ顔の両親が踊り狂 ていたら︑多かれ少なかれ異常な空気を感じるわ︒

⿊魔術(くろまじゆつ)⽣贄(いけにえ)が⾃ら進んでその⾝を(ささ)げようとしているのかと思たぞ︒

そんな儀式の横を突切て︑ネフリは鶏舎へと⼊ていく︒

そしてすぐに︑⼤切なものを運ぶように︑慎重(しんちよう)に︑俺の⽬の前へと(もど)てくる︒

﹁ほら⾒て ︕こんなに⽴派な卵を産んだのよ︕﹂

ネフリの両⼿に載せられていたのは︑産みたての卵だた︒

⼤きさも形も申し分ない︑⽴派な卵だ︒表⾯がざらざらしていて新鮮(しんせん)そうである︒

﹁全部ヤシロのおかげ ︕これであの⼦たち……もと⽣きられるよ…………﹂ネフリの⽬尻に(なみだ)()かぶ︒

(うれ)し涙というものは︑⼥性を美しく⾒せるものだ︒

うかりときめきそうにな…………ら︑ないな︒ニワトリ顔だと︒

﹁ありがとう ︕ヤシロて︑いい⼈ね︕﹂

うわ︑そのセリフ︑中学⽣くらいの頃に同級⽣の⼥の⼦に⾔われたかたな……

﹁ね︒この技術︑(ほか)の養鶏場にも教えてあげたいんだけど……ダメ︑かな︖﹂

⾰新的な技術はそれだけで価値がある︒特許があるかどうかは知らんが︑権利を主張し……そうだな︑例えば﹃廃鶏再⽣ギルド﹄でも

作てその技術の使⽤に料⾦を発⽣させることは可能だろう︒

だが……

﹁好きにしろ︒それで卵が⼤量に⼿に⼊るなら︑こ ちとしてもありがたい﹂

﹁ありがとう︑ヤシロ  ︕⼤好き︕﹂

ネフリが感極(かんきわ)ま て俺に()きついてくる︒

うわ︑こういうの︑中学⽣くらいの頃に同級⽣の⼥の⼦にやられたかたな……

﹁あ  ︕い︑今のは︑⼈としてて意味で︑異性としてて意味じ ないからね︕﹂

ネフ リが俺から(はな)れ︑(あわ)てて弁解してくるが……うん︑⼤丈夫(だいじようぶ)⼤丈夫︒誤解とかしないから︒そんな⾚い顔しないでくれるか︒ボイルされてるみたいで冷や冷やするから︒

﹁とにかく︑すぐにみんなに知らせるね︒それで︑廃鶏になる予定だたニワトリが産んだ卵は優先的に陽だまり亭に販売(はんばい)する︒それでいい︖﹂

﹁お︑上出来だ﹂

﹁みんな喜ぶだろうな﹂

そう⾔て︑ネフリはにこにこ笑いながらくるりと体を回転させる︒

そして︑両親のやている不思議な踊りに参加し始めた︒……だから︑なんの儀式だよ︑このニワトリ踊り︒

﹁あ︑そうそう﹂

俺は⼀つ︑﹃とても重要なこと﹄を忠告しておく︒

﹁前に来た時も⾔たが︑⽶を(あた)えるのはやめた⽅がいい︒俺のいた国では︑卵を産まなくなる

と⾔われていたからな﹂

﹁それには(おどろ)きだけど︑ヤシロが⾔うなら信じるよ ︕それもみんなに伝えておく﹂随分(ずいぶん)と信⽤されたもんだ︒…………しめしめ︒

﹁ヤシロさん︒なんだか︑とても嬉しそうですね﹂

そり嬉しいさ︒なにせ︑俺の計画は現在順調に好転していているのだから︒

﹁さ︑ささと帰 て教会に⾏く準備をしようぜ﹂

﹁はい︒そうしましう﹂

そうして︑俺たちは(なぞ)のニワトリ踊りを披露(ひろう)する不気味な養鶏場を後にした︒

﹁あ  ︕マグダお姉ちんだ ︕﹂

﹁お姉ち ん︕﹂

教会に着くと︑ガキどもが⼀⻫(いつせい)にマグダに群がた︒

この数⽇で︑マグダはすかりガキどもの⼈気者になていた︒

﹁またアレやて︕﹂

……了解(りようかい)

マグダは⼿近にいたガキんちを(つか)むとぽ んと空へ(ほう)り上げた︒

そして︑そばにいるガキどもを次々に⾼く放り投げていく︒

円を(えが)くようにして放り投げては落下してきたガキをキ チ︑そしてまたポンと放り投げる……という︑お⼿⽟のようなことをし始める︒

⾒ているこ ちは冷や冷やものなのだが︑これがなんとガキどもに⼤⼈気なのだ︒

マグダはマグダで︑この程度の芸当は⽂字通り朝飯前らしく︑また﹁お姉ち ん﹂と呼ばれることがまんざらでもない様⼦で︑ガキどもと率先(そつせん)して遊んでやている︒

﹁やれやれ︒すかり⼦供たちを取られてしま たな﹂肩をすくめながら︑エステラが俺の隣へやて来る︒

毎朝︑こいつとはここで合流するのだ︒

﹁少し前までは﹃エステラお姉ちん︑エステラお姉ちん﹄と⼤⼈気だたんだけどね﹂

﹁あのぐらいのガキどもはパワフルな遊びが好きだからな︒マグダのパワ には(だれ)(かな)わね

よ﹂

﹁確かにね︒それで︑何か進展はあたのかい︖﹂

﹁卵か︖﹂

﹁そう︒ジネトちんが嬉しそうにしていたからさ﹂

﹁お前の判断基準はいつもジネトだな﹂

﹁当然だろ︒ボクはジネトちんの親友であり︑フンなんだから﹂

﹁なら︑俺がジネトグ ズでも作るから︑お前買てくれ﹂

﹁本⼈の許可がない⾮公式グ ズはお断りだよ﹂

﹁スケスケのパンツでもか︖﹂

……それで喜ぶのは君だけだよ﹂

朝から思いきり(しぶ)い顔をされてしま た︒

﹁ヤシロさん︑エステラさん︒おはようございます﹂

教会のシスタ︑超絶(ちようぜつ)美形のエルフ︑ベルテ ナだ︒

今⽇も神々(こうごう)しいぐらいに美しい︒……ただし︑(おこ)らせると超(こわ)い︒

﹁マグダさん︑いい顔をされるようになりましたね︒ヤシロさんの善⾏の賜物(たまもの)でしうか﹂

﹁まだなんの成果も出てないのにいいも悪いもないでしう﹂

﹁うふふ︒ヤシロさんには︑そんな奥ゆかしいところもあるのですね﹂そんなんじねよ︒

何度も⾔ているが︑俺は俺の利益のためにやてんだよ︒

﹁マグダさんを⾒ていれば分かりますよ﹂

ベルテ ナがにこやかな︑まるで聖⺟を思わせるような(ひとみ)でマグダを⾒つめる︒

視線の先では︑マグダがガキ共と(たわむ)れていた︒

﹁今︑彼⼥が置かれている状況(じようきよう)が︑彼⼥にとてとても望ましいものであるということは︒それはきと……

ゆくりと︑聖⺟の瞳がこちらへと向けられる︒

……ヤシロさんがそうなるように⼿を尽くした結果なのでしう︖﹂

どこまでも澄んだ美しい瞳は︑少々視⼒に問題があるらしい︒どうやら俺が善⼈に⾒えているようだ︒(くも)てるか重度の乱視なんじ ないだろうか︒

﹁⻑年︑⺟親代わりをしていますと︑顔を⾒ただけで分かるようになるんですよ︒そういうこと

が﹂

﹁じ あ︑俺の顔はあまり⾒ないでください︒プライバシの侵害(しんがい)なので﹂

﹁うふふ︒それは残念ですね︒ヤシロさんのお顔は︑割と好きなんですよ﹂

お と︒それはプロポズか何かか ︖ けどな︑俺に()れると⽕傷(やけど)するぜ︖

﹁とてもユニ クだから︑ですよね︖﹂

おい︑エステラ︒その⼝︑余計なことしか⾔えないんならまつり()いで封印(ふういん)すんぞ︖

﹁うふふ︒ヤシロさん︑ユニ クは褒め⾔葉ですよ︖﹂

﹁全然嬉しくないですね﹂

﹁けれど︑ヤシロさんは⼼を(かく)す達⼈ですから︑顔を⾒ただけでは判断出来かねますね﹂

それはよかた︒顔を⾒る(たび)に悪事がバレち(たま)たもんじ ないからな︒

﹁ですので︑ヤシロさん︒もと会いに来てくださいね︒朝⾷の時だけでなく︑いつでも︑気の向いた時に﹂

会いに来いと⾔ たベルテ ナは︑少しだけ⽢えるような︑(さび)しいのだと()ねているような︑形容しがたいのだが……少⼥のような表情を⾒せていた︒

……くそ︒美⼈がそんな顔するのは卑怯(ひきよう)だろうが︒

﹁なんとなく︑⼒仕事とか押しつけられそうなので遠慮(えんりよ)しておきます﹂

﹁あら︒うふふ……バレてしまいましたか︖﹂

そんな冗談(じようだん)を⾔うベルテ ナと︑そんな様をニヤニヤと⾒つめるエステラに(はさ)まれる()

⼼地(ごこち)の悪さに()()……⾮常に(めずら)しく︑俺は率先してガキと遊んでやたのだた︒

教会への寄付を終えた俺たちは︑俺の意向で少し遠回りをして帰ることにした︒

﹃なんとなく﹄そうしたい気分だたのだ︒

﹁朝のお散歩︑楽しいです︒⾷堂がオ プンすると︑なかなか出来なくなりますからね﹂

ジネトが満⾯の()みを()かべ︑俺たちも思い思いの歩幅(ほはば)で散歩を楽しむ︒

すると──

特に当てもなく歩いていた俺たちは︑とある農家の前で⾔い争いの声を⽿にした︒

﹁あれれ  ︖ なんだか(さわ)がしいぞ  ︖ 何かあたのかな︖﹂

……なんだい︑そのわざとらしいセリフは︖﹂

エステラが俺のナチラルな演技に(まゆ)を寄せる︒……ま たく︑分かてね な︒

何か事件が起こりそうな時は︑主⼈公が関係者をそちらに誘導(ゆうどう)するのがお約束だろうが︒

ともあれ︑俺の(たく)みな誘導により︑俺たちは(そろ)てそちらに向かうことになた︒

そして︑⽬撃(もくげき)する︒

﹁ち ︑待 てくれよ︕ そり ね だろ︑旦那(だんな) ︕ な ︕ それじ あ︑これから俺ら

……どうやて⽣きていけばいいんだよ !? な︑待てくれてばよ︕﹂

(さわ)やかな朝の時間に︑悲痛な声を上げていたのは⽶農家のカモ⼈族ホメロスだた︒

地⾯に四肢をつきうな垂れるホメロス︒そんな彼を無視するように遠ざかていくのは⾏商ギ

ルドの⼈間と思われる︒

おそらく︑﹃急に舞い込んだ異常事態に関連した決定事()﹄でも伝えに来たのだろう︒

﹁何があたんでしうか ︖お話を(うかが)てみましう﹂

⼼配そうにジネトがホメロスに駆け寄る︒⼿を貸し︑⽴たせてやている︒ホメロスは⽣まれたての⼦⿅(こじか)のように⾜をふらつかせて(かろ)うじて⽴ち上がた︒ま︑顔はカモなんだけどな︒

﹁どうされたんですか ︖ 顔が真⻘ですよ﹂

俺には茶⾊に⾒えるけどな︒こいつマガモじ なくてカルガモ顔だし︒

﹁あ……あんたは︑確か……

﹁陽だまり亭のジネトです︒先⽇お邪魔(じやま)させていただいた﹂

﹁あ︑あ︑そうか……いや︑すまね な……こんな︑無様なところを⾒せちま て……

﹁そんなこと……それより︑何か問題でもあたんですか︖﹂

﹁う ………… ︕﹂

﹁ホメロスさん!?

ジネトの⾔葉に︑ホメロスは顔を(おお)い︑泣き始めてしま た︒

おろおろとするジネト︒

マグダもジ とホメロスを⾒つめている︒

﹁実は︑さき⾏商ギルドの商⼈がやて来て……もう︑ウチの⽶は買えないと﹂

﹁え !?

ななな︑なんだて  ︕ ──という表情を︑ジネトはしている︒

﹁どうしてですか ︖だて︑先⽇までは品薄(しなうす)なくらいだと……﹂﹁それが……ウチの⽶は︑主に⿃のエサ⽤に買い取られていたんだが……養鶏(ようけい)場の連中が全員︑今後⽶は買わないと⾔い出したて……

﹁え……

ジネトの顔⾊が急速に悪くなていく︒

そして︑錆付(さびつ)いたカラクリ⼈形のようなぎこちない動きで︑ゆ くりと俺の⽅へ視線を向け

る︒

マグダとエステラも︑俺をジ と⾒つめる︒

あんまり⾒ち︑いやん︒

﹁だから︑今後は︑⾷糧(しよくりよう)担当の商⼈に売る分だけでいい て……けど︑⽶を⾷べる⼈間なんてほとんどいねし…………これじ あ⽶農家は崩壊(ほうかい)……いや︑壊滅(かいめつ)……いやいや︑消滅しちまう

 ︕⾝の破滅だ……俺︑もうおしまいだ …………

(ひざ)の⼒が限界に達したのか︑ホメロスは再び地⾯へとくずおれた︒

今回は︑ジネトも助け起こさなかた︒そんな余⼒が︑ジネトにもないのだろう︒

しうがないな︑ま たく︒

﹁ミスタホメロス﹂

俺は︑地⾯に(うずくま)り背を丸めるホメロスの(かた)に⼿を()せる︒

そして︑慈悲の⼼をもて救済の⼿を差し伸べる︒

﹁⼤量に余 たその⽶……俺たちゴミ回収ギルドが引き受けてやてもいいぞ︖﹂

………………あんた……

﹁﹃ゴミ﹄という呼び名を採⽤しているが︑(ほか)のギルドから仕⼊れている物も商品としてなんら⾒劣(みおと)りのしない⼀級品ばかりだ︒お前の⽶の名が(けが)されることなんかない︒むしろ︑ここの⽶ならウチで⼀番のブランド品になるかもしれない︒﹃やぱりホメロスの⽶は(すご)い﹄と︑世間が(にん)

(しき)するんだ﹂

……俺の⽶を…………認めてくれるのか︖﹂

地⾯についていた(どろ)だらけの⼿で︑すがりつくように俺の左⼿を(にぎ)てくる︒両⼿で包み込む

ように︑し かりと︒

俺はその両⼿の上に︑右⼿を載せ包み込んでやる︒

﹁俺は︑﹃最初から﹄あんたの⽶が欲しいと⾔ていただろ︖﹂

﹁あ………… ︒す︑すまなかた……この前は︑(ひど)い態度を……なのに︑あんたは……

は︑恥ずかしい﹂

﹁気にすんなよ︒(だれ)だて⾃分の⼤切なものを得体の知れないヤツに預けるのは躊躇(ためら)うものさ︒それに︑信⽤てのは⼀朝⼀⼣(いつちよういつせき)で得られるものじ ない てことも︑俺たちは理解している︒

あんたを責めるつもりはねよ﹂

﹁あんた……いい⼈だな﹂

そう思う ︖ 本当にそう思うの ︖むふふふ……

﹁じ あ︑ここの⽶を俺たちに売てくれるか︖﹂

﹁あ  ︕もちろんだ ︕ ⾏商ギルドに⼀度いらね と⾔われちま た⽶だ︒あんたになら格安で(ゆず)てやるぜ︕﹂

﹁それは助かる︒今後とも︑末永くよろしくな﹂

﹁こちらこそだ︕﹂

俺とホメロスは握り合 た⼿を︑もう⼀度ギ と握りしめ︑それをも て契約(けいやく)握⼿(あくしゆ)とし

た︒

こうして︑陽だまり亭には安定して⽶が供給されることになたのだ︒

新⽶︑⾷べ放題だ ︕わほ い︕

物語はハ ピエンドを(むか)え︑俺たちは()気揚々(きようよう)と帰路についた︒

ホメロスの農園を(はな)れ︑陽だまり亭が近くなたところでエステラが声をかけてきた︒

﹁これを(ねら)ていたね︖﹂

振り返ると︑なんともジト とした⽬が俺を⾒ていた︒

﹁なんの話だ︖﹂

﹁養鶏場の(なや)みを親⾝にな て聞いたのも︑技術を無償(むしよう)提供したのも︑みんなこのための布⽯だたんだね︕﹂

﹁何を(おこ)ているんだ ︖ ネフリたちは愛するニワトリを処分せずに済み︑卵の⽣産量が上が た︒ホメロスにした て︑売却(ばいきやく)先が⾏商ギルドからゴミ回収ギルドに変更(へんこう)にな ただけだ︒それも︑⾃分の作る⽶の名も汚されず︑⾃尊⼼も傷付かない平和的な幕引きだたじ ない

か︒誰かが不利益を(こうむ)ているか︖﹂

……確かに︑誰も不利益は被ていない︒けれど︑君が得をしている﹂

﹁そこはほら︑⽇頃(ひごろ)の⾏いがいいから︖﹂

﹁今の発⾔︑精霊神(せいれいしん)様はどう判断するだろうね︖﹂

きと諸⼿(もろて)を挙げて﹁そうだそうだ﹂と賛同するさ︒

幸運は︑⼈徳の⾼い⼈間のもとへ⾃然と舞い込んでくるものだからな︒

﹁え と︑確認なんですが……

(ひか)えめに挙⼿をして︑ジネトが不安げな表情で(たず)ねてくる︒

﹁今回の⼀件は︑誰も不幸にはなていない……ん︑です︑よね︖﹂

﹁もちろんだ﹂

ニワトリの飯を俺が取り上げただけだからな︒

ましいて⾔えば︑ホメロスの収⼊がほんの少しだけ減たかな︒

でもま ︑ゼロになるところを救われたのだ︒万々歳(ばんばんざい)だろう︒

しかもだ︒現状では主に﹃⿃のエサ﹄としてしか出回ていない⽶だが︑その認識がいかに(おろ)かなことか︑俺の⼒をもてすれば必ずや思い知らせてやれる︒

⽶の可能性と有⽤性をアピルし︑このオルブルム内でなくてはならない代物(しろもの)に成り上がらせるのだ︒現在主役の座を独占(どくせん)しているパンを(おびや)かすほどの存在にな︒

需要(じゆよう)が増せば価値が上がる︒そうなれば︑⼀度落ち込んだ収⼊分などあ という間に取り(もど)せる︒

何事も︑⻑期的な視野を持つことが重要だ︒(ゆえ)に︑今は莫⼤(ばくだい)な利益を得るための潜伏(せんぷく)期間だと(とら)えればいい︒そして︑()(しの)んだ先に待ているのは︑(かがや)かしい未来︒

それを思えば︑ホメロスが不満を述べる余地など何⼀つない︒

……では︑めでたしめでたし……ということで……︖﹂

﹁問題ない﹂

俺はきぱりと⾔い切り︑そのタイミングでたどり着いた陽だまり亭へと⼊ていく︒

うむ︒実にいい商談だた︒⽶に卵︒当初の予定通り確保完了(かんりよう)だ︒﹁……どうしてだろうね︒ヤシロを素直(すなお)()めたくない気分なのは……

﹁で︑でも︑ヤシロさんはみなさんのために頑張(がんば)てくださたんです……よね︖﹂

……⾃分のため﹂

ドアの向こうで三⼈(むすめ)のそんな会話が聞こえてきたが︑俺はそれらをさらりと無視することに

した︒

 

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